2013年07月16日
サマリー
政府の総合海洋政策本部は2013年3月12日に、海流発電、潮流発電、波力発電、海洋温度差発電、洋上風力発電など海洋再生可能エネルギー(以下、海洋エネルギー)の実証実験のための海域、いわゆる「実証フィールド」選定のための公募要件を公開した(※1)。海洋エネルギーの実用化については、陸上とは違う海という環境で安全、かつ効率的に発電できることが求められる。このため実海域で実証することが不可欠であるが、現在は、民間事業者が個別に権利関係者などと調整を行っているため、時間とコストがかかっていることが、海洋エネルギー導入推進の課題の一つとされている。
実証フィールド構築は、「開発コストの低減、民間の参入意欲の向上、産業の国際競争力強化、関連産業集積による地域経済活性化」を目的とするものである。総合海洋政策本部の実証フィールドに応募できるのは基本的には都道府県であるため(※2)、応募のための検討が各地の都道府県で始まっている(図表1)。また、利害関係者などの了解が得られていることも要件になっており、自治体が中心となって推進されると思われる。

世界の企業を呼び込んでいる実証フィールドが「欧州海洋エネルギーセンター(European Marine Energy Centre:EMEC)」であるが、ここは地域活性化の成功例としても有名である。EMEC(※3)は2003年、英国北部のオークニー諸島に作られた。基盤整備に3,000万ポンド(1ポンド150円換算で45億円)以上の公的資金が投入されたが、今は経済的に自立している。2011年以降は地元のサプライチェーンに年間100万ポンド(同1.5億円)以上を投入している。また、EMECで実証実験を行う顧客企業が、地元企業との協働で1設備につき約100万ポンドを使うと見積もられている。さらに、EMECによる雇用と関連の海洋エネルギー研究者などを合わせると250名以上になっているという。日本の実証フィールドも離島など都市部から離れた地域が候補になると思われるため、EMECのような地域活性化への期待も大きいだろう。
(※1)総合海洋政策本部 平成25年3月12日 「海洋再生可能エネルギー実証フィールドの要件の公表及び公募について」
(※2)要件では、都道府県以外の者が応募する場合は、都道府県の同意を得ること、とされている。
(※3)EMEC “EMEC general information leaflet”
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