2012年05月11日
サマリー
海洋エネルギーとは、波の上下動、海流・潮流等の流れ、潮の満ち引きによる、位置エネルギーや回転エネルギー等のことである。これらのエネルギーを利用して水車を回す発電方法は、複数ある(図表1)。水は空気よりエネルギー密度が高く、海流・潮流等は比較的安定しているため、風力発電に比べて発電効率が高い。
日本はかつて、波力発電技術で先行していた。1940年代に考案され、世界で初めて実用化された波力発電システムである益田式航路標識ブイは、今でも世界で数千基稼働している。またIEA(国際エネルギー機関)と協力した実海域での試験等も行われていたが、政策的な後押しがなかったこと等から実用化には至らなかった。また日本は、潮力(潮汐力)を除いた海洋エネルギーのポテンシャルのある場所を有しているものの、漁場と重なっていることや、環境アセスメントのやり方が明確になっていない等の課題がある。
一方、欧米では、イギリスの電力系統につないだ波力発電や、米国企業の150kWの発電機を連結してメガワット級の発電を目指す試験等が登場しており、商用化に向けた動きが進んでいる。2003年にはイギリス北部のオークニー諸島に、実海域で大規模な実証試験ができる欧州海洋エネルギーセンター(European Marine Energy Centre:EMEC)が建設された。ここは実証試験だけでなく、コンサルティングサービスや研究も行っている。世界に開かれており、ノルウェー、フィンランド、ドイツ等の欧州や米国の企業も利用している(※1)。試験場ができたことで、現地では雇用も生まれているという(※2)。
このような中、日本でも海洋エネルギー活用を推進する動きが出てきた。
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、実海域における海洋エネルギー発電システムの実証研究や、発電性能や信頼性の向上等に関する要素技術の研究開発等のための公募を行い、2011年10月に図表2の企業・大学が選定されている(川崎重工はEMECで試験を行う予定(※3))。
(出所)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
「『風力等自然エネルギー技術研究開発/海洋エネルギー技術研究開発』に係る実施体制の決定について」(2011年10月)
をもとに大和総研作成
海洋エネルギーに注目する地方自治体も出てきた。新潟県では2012年4月に、粟島における海洋エネルギーの導入可能性や漁業等への利活用モデルの検討を行う事業者を選定した(※4)。
海洋エネルギー開発関係者が切望しているのが、EMECのような実証試験場である。個別の試験ごとに漁業関係者と調整を行うのは難しく、時間もかかる。海に電線はきていないため、EMECのように電力系統につながる環境も望まれている。こうした実証試験場については、沖縄県、佐賀県、青森県等が誘致を見据えた取り組みをするとしているが、県単体で実施するのは困難なため、実際は国との協働になるものと思われる。
日本の海洋に関する施策を集中的かつ総合的に推進するために設置されている総合海洋政策本部(※5)では、平成24年度中に公表予定の政府方針の中に、実証試験場の整備が含まれるとしている。地元の利害関係者との調整において自治体の協力は欠かせないため、前述のような自治体の動きは歓迎されるだろう。
2012年3月9日には、日本で海洋エネルギー資源利用を推進している団体である海洋エネルギー資源利用推進機構(OEA-J)とEMECが、実証試験場(日本版EMEC:JMEC)構築のために覚書を交わした(※6)。EMECは、JMEC構築のためのデザインや整備、運用等について、アドバイスや支援を提供するとしている。政府が実証試験場を構築する際には、こうした活動からの協力が大きな力となるだろう。
波力発電の実用化では欧米に先行されたものの、海洋エネルギー開発全体でみれば、洋上風力発電の浮体技術や海底油田の掘削技術等、日本の高度な技術や研究が活かせる可能性が大きい。喫緊の電力不足対策には間に合わないが、日本の技術力と四方を海に囲まれているという環境が活かせる海洋エネルギー利用を推進していくことが望まれる。
(※1)EMEC “EMEC ‘Charting Achievement’ Leaflet”
(※2)日テレNEWS24 「英国のある街を変えた海洋エネルギー産業」
(※3)川崎重工 「潮流発電システムの開発に着手」
(※4) 新潟県 「『海洋エネルギー利活用モデル実証事業』の企画提案審査結果について」
(※5)総合海洋政策本部
(※6)EMEC “JAPANESE COLLABORATION AGREEMENT EMEC to support development of Japanese Marine Energy Centre”
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2024年12月消費統計
耐久財は強いが非耐久財が弱く、総じて見れば前月から概ね横ばい
2025年02月07日
-
インド2025年度予算案:消費回復が民間投資を促す好循環を生むか
企業投資の誘発効果の大きい耐久財セクターへの波及がポイント
2025年02月06日
-
消費データブック(2025/2/4号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年02月04日
-
「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 会社法の改正に関する報告書
従業員等への株式の無償交付、株式対価M&A、実質株主の把握など
2025年02月04日
-
中小企業の更なるM&A促進には環境整備が急務
2025年02月07日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
2025年度税制改正大綱解説
大綱の公表で完結せず、法案の衆議院通過まで議論が続くか
2025年01月06日
-
2025年の中国経済見通し
注目点は①不動産不況の行方、②トランプ2.0 vs 内需拡大
2024年12月20日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
-
岐路に立つ日本の人的資本形成
残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革
2025年01月09日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
2025年度税制改正大綱解説
大綱の公表で完結せず、法案の衆議院通過まで議論が続くか
2025年01月06日
2025年の中国経済見通し
注目点は①不動産不況の行方、②トランプ2.0 vs 内需拡大
2024年12月20日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
岐路に立つ日本の人的資本形成
残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革
2025年01月09日