もう一つの海洋エネルギー「洋上風力発電」

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2012年08月20日

サマリー

2012年8月8日、内閣官房の総合海洋政策本部から、海洋の年次報告として「平成24年版 海洋の状況及び海洋に関して講じた施策」と題する報告書が公開された(※1)。この中で、海洋再生可能エネルギーについての特集が組まれており、波力、潮流・海流などのほかに、洋上の風力発電についても紹介されている。洋上風力発電は、海の上の風を利用した発電なので、海洋エネルギーの1つに数えられる。陸上風力発電は、太陽光発電に比べ発電コストが低く大規模化もしやすいが、日本の場合は、風況(欧州のような安定した風力、風向の地域が少ない)、雷や台風等の気象条件、環境への影響(騒音、バードストライク、景観)等が課題となって、導入可能な地域が限られる。しかし陸上に比べ洋上には、風況が安定している、騒音や景観等への影響が少ない、より大きな設備が設置できる等のメリットがある。ただし、設置のための工事や送電線敷設にコストがかかる、メンテナンスの手間がかかる等の課題がある。

洋上の風力発電のうち、着床式(海岸に近い浅い海底に設置するもの)については実用化されており、日本でも茨城県鹿島港沖等で2MWの洋上風力発電所が稼働(※2)、福岡県北九州沖と千葉県銚子沖では風況等海象観測システムの研究・開発も含めた、2MW級の風力発電システムの準備が進められているところである(※3)。しかし、既設の日本の洋上風力発電の設備容量は25MWと、イギリスの1,838MW、デンマークの871MW、中国の108MW等(※4)と比べると多いとはいえない(図表)。

図表 IEA Windメンバー国の洋上風力発電設備容量(2011)
(注)大規模風力システムプロジェクトの計画・実施等の情報交換を目的にした協定(IEA Wind)に参加している国。2012年時点で、25団体(20カ国、欧州委員会、欧州風力エネルギー協会等)。
(出所)IEA Wind "IEA Wind Annual Report for 2011"から、洋上風力発電データのある10カ国を抜粋して大和総研作成


日本には遠浅の海域が少ないことから、沖合に浮かべ、鎖等で海底に固定する浮体式の研究も進められている(※5)。環境省は、2012年6月に長崎県五島市椛島沖の海域(離岸距離1km、水深100m)に100kWの風車を設置した。これは2013年に2MWの実証機を設置するため、地域の安心感醸成や、大型機建造・制御等に関するデータの取得を目的とするものである。経済産業省では、大規模浮体式洋上ウィンドファーム建設のための安全性、信頼性、経済性を検証するプロジェクトを民間コンソーシアムに委託した(※6)。2011年度から2015年度にかけて、福島県沖の海域(離岸距離20~40km、水深100~150m)に浮体式風力発電機3基(2MW1基、7MW2基)等を建設する計画である。「漁業と浮体式洋上ウィンドファーム事業の共存」もテーマとしており、漁業関係者との対話・協議を通じ、将来の事業化を模索するとしている。

国土交通省では、2012年4月23日に「浮体式洋上風力発電施設技術基準」を制定(※7)した。これは浮体式洋上風力発電施設の設計時に必要な技術上の要件を明確にし、施設の安全確保を図ること、さらにこの技術標準を基に国際標準化を先導して、国際競争力を強化し、浮体式洋上風力発電の普及拡大を促進することを目的としている。同6月には環境省と連名で、着床式洋上風力発電を主眼においた(※8)港湾の管理運営との共生のためのマニュアルとして「港湾における風力発電について」を公開(※9)、同7月31日には、浮体式風力発電設備について、建築基準法の適用除外とする規制緩和を行う(※10)等、洋上風力発電導入を促進する動きが加速化している。

前述のように着床式の実績は海外の方が多いが、浮体式については日本にもチャンスがある。ノルウェーは2.3MWの浮体式洋上風力発電を稼働(※11)、韓国は浮体式に関する国際標準化の提案をIEC(国際電気標準会議)に提出し、その検討を行うワーキンググループの議長国になる(※12)等、日本が先んじられている部分もある。しかし、浮体式を手掛けている国のほとんどは、まだ実験段階であり、技術は確立していない。国際標準化についても、韓国の提案内容が十分ではないとの見方があり、改めて検討されることになったという(※13)

洋上風力発電は、エネルギー大消費地に近い場所にもポテンシャルがあり、漁業や他の海洋エネルギーと協調することで、雇用増加・地域活性化・コスト低減等の可能性も生まれる。日本が浮体式洋上風力発電の国際標準化を主導する(※14)ためにも、長崎県や福島県の実験に期待が集まる。

(※1)総合海洋政策本部 「平成24年版 海洋の状況及び海洋に関して講じた施策
(※2)WIND POWER Group 「ウインド・パワーかみす風力発電所
(※3)独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 「国内初!沖合における洋上風力発電への挑戦~プロジェクト現場レポート~
(※4) IEA 「IEA Wind Annual Report for 2011
(※5)(一般社団法人)日本風力発電協会 「日本の洋上風力発電
(※6)丸紅 ニュースリリース 2012年3月6日 「福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業について」
(※7)国土交通省 報道発表資料 平成24年4月23日 「浮体式洋上風力発電施設の普及促進について -安全確保のため技術基準を制定-」、
浮体式洋上風力発電施設の普及促進について -安全確保のため技術基準を制定-
(※8)ただし「港湾管理者の権限が及ぶ陸域における風力発電にも活用は可能」としている。
(※9)環境省 報道発表資料 平成24年6月22日 「港湾において風力発電の導入を検討するマニュアルの策定について(お知らせ)
(※10) 国土交通省 報道発表資料 平成24年8月10日 「浮体式風力発電設備に係る建築基準法の適用の除外について
(※11)Statoil 「Hywind - the world’s first full-scale floating wind turbine
(※12) 国際標準化の議論において影響力を持つためには、議長国や幹事国になることが重要といわれる。
(※13) 独立行政法人経済産業研究所 「資源エネルギー政策構築に欠かせない国際標準化の視点
(※14) 国際標準化の議論において、実証実験に基づいたデータを持っている国の発言力が強いとされる。

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