米国経済見通し 利下げ再開後の注目点は?

景気下振れリスクが懸念される時こそ、インフレ動向を注視すべき

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2025年09月24日

  • 経済調査部 主任研究員 矢作 大祐
  • ニューヨークリサーチセンター 研究員(NY駐在) 藤原 翼

サマリー

◆9月5日に公表された8月の雇用統計が7月に続き軟調な結果となったことで、市場の中で米国経済の下振れリスクが懸念されている。9月9日に公表された雇用統計の年次改定の暫定値を踏まえると、足元の雇用者数は現在の公表値から一層下振れし、ブレークイーブン雇用者数(失業率を大きく変動させない雇用者数のペースを指し、2025年は前月差+4~+9万人が目途)を大きく下回る可能性がある。

◆雇用環境の悪化が続けば、家計の所得を下押しし、個人消費を下振れさせる可能性が高まる。足元の米国家計は、雇用環境悪化のあおりを受けている低中所得層と、賃金の伸びが底堅く、資産所得増も追い風となっている高所得層で、個人消費が二分化しているといえる。高所得層の消費によって、個人消費全体は減速にとどまっているが、雇用環境の悪化によって低中所得層という家計の広範囲で地盤沈下が進んでいる。高所得層頼みの個人消費は、雇用環境の悪化が高賃金層へと及んだり、資産価格の調整によって資産所得が抑制されたりすれば、大幅に下振れする恐れがある。

◆景気の下振れリスクへの警戒が強まる中で、9月16日・17日のFOMCでは0.25%ptの利下げが決定された。先行きの利下げペースが注目される中、雇用環境の悪化リスクに対する管理という意味合いで、2025年内は9月の利下げ分も含め合計0.75%ptの利下げが見込まれる。他方で、2026年に関しては、景気回復が進む中でインフレ圧力が長引き、FOMC参加者は中央値で0.25%pt利下げを予想している。

◆問題は、市場参加者が2026年も2025年同様に0.75%ptの利下げを織り込み、FOMC参加者の見通しと乖離していることだ。こうした中で注目すべきはインフレ動向だ。足元で企業の価格転嫁スタンスが積極化しつつあり、関税コストが消費者に転嫁され、CPIが再加速することが示唆される。高インフレとなればFRBは利下げを躊躇し得る。2026年は市場参加者が想定するほどの利下げペースは期待しにくく、2025年に比べて緩やかなペースが想定されよう。

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