サマリー
◆都道府県間の経済の地域間格差の是正は長期的に進まず、労働生産性上昇率は大都市部を含めて全国的に低下してきた。地方創生の取り組みが本格的に始まった2010年代後半以降も改善は見られない。大都市部への就業者の偏在も進んだが、日本の労働生産性上昇率への直接的な影響は限定的と試算され、各地域の生産性の動向がマクロの生産性の伸びを決定付けてきた。
◆過去10年の地方創生策がマクロレベルで成果が上がらなかった理由の1つに、KPI(重要業績評価指標)の設定による進捗管理が不十分だったことが挙げられる。まち・ひと・しごと創生では130個を超えるKPIが設定されたが、点検・検証が表面的でPDCAサイクルが回ったとはいい難い。2023年から始まったデジタル田園都市国家構想では国の取り組みが「後方支援型」となり、成果の進捗管理が一段と曖昧になった。石破茂政権の「地方創生2.0」では、幅広い地域をデジタルの実装段階へと早期に移行させるとともに、「伴走型」で国が地方と一体となってPDCAサイクルを確立することが重要だ。
◆石破政権は、最低賃金(以下、最賃)を2020年代に全国加重平均で1,500円に引き上げる方針だが、達成には過去最高を上回る引き上げ率が要求される。最賃の急速な引き上げで企業負担が過重になり、最賃法で保護すべき低賃金労働者の雇用環境が悪化するリスクはとりわけ地方部で大きい。石破首相の重視する地方創生に逆行する恐れもある。「2020年代」という新たな達成時期は経済実態に照らして柔軟に見直すべきだろう。中小企業の生産性向上支援などを加速させるとともに、EBPM(証拠に基づく政策立案)の強化が一層求められる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
石破新政権誕生、経済政策の注目点は?
デフレ脱却後も見据えた供給面重視の経済・財政運営に期待
2024年10月03日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
同じカテゴリの最新レポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
主要国経済Outlook 2025年6月号(No.463)
経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国
2025年05月26日
-
世界経済は落ち着きを取り戻すのか
2025年05月26日
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日