日本経済中期予測(2018年2月)
—人手不足は生産性を上げる好機となるか—
サマリー
◆大和総研では日本経済中期予測を1年ぶりに改訂し、今後10年間(2018~2027年度)の成長率を、年率平均で名目1.6%、実質1.0%と予測する。予測期間前半はプラスマイナスの材料が交錯しながら成長率は鈍化しよう。後半は働き方改革等の成果も表れて、民間需要が牽引する形で緩やかに成長していくとみられる。
◆世界経済の平均成長率は3.2%と予測する。予測期間の前半は先進国が牽引し、後半は緩やかに鈍化しつつも、安定成長を辿ろう。世界経済のリスク要因は引き続き米国とみられる。Fedは緩やかなペースで引締めを続けるとみられるが、米国の財政政策次第では、短期的にはインフレへの配慮から利上げペースが加速する可能性も残り、長期金利の上昇には留意する必要があろう。
◆世界的な潜在成長率の低下という潮流の下、日本経済が持続的な成長を実現するためには、経済成長の源泉である労働生産性を高めることが本質的に重要だ。主要国の労働生産性の要因分解を行うと、広義の技術進歩を示すTFP(全要素生産性)を向上させることが各国共通の問題として浮かび上がってくる。今後、雇用のミスマッチの解消や研究開発投資の拡大・効率化を通じて、TFPを一層引き上げることが求められる。
◆特に日本ではサービス産業の労働生産性が低く、製造業でもばらつきが大きい。TFPだけでなく人的資本もまだ上げ余地がある。労働生産性の改善には市場での新陳代謝の促進や企業規模の拡大等が課題であり、市場機能を強化する経済制度や変化に耐える社会制度の構築、制度・政策間のインセンティブ構造の整合性を図る必要がある。
◆西日本で産業構成が高い医療,福祉では付加価値額の伸び率が低い一方、従業者数の伸び率は高いこと、さらに地方で多い建設業や卸売業,小売業では労働生産性の低い小・中規模事業所へ人材が滞留しやすいことで、労働生産性は上がりにくい。比較優位分野を強化しつつ、地域でも競争やM&Aを促すビジネス環境や高度人材の活躍が重要だ。
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