一億自己啓発社会の死角

データが示す、転職志向・子育て・ジェンダーにおける格差

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2025年09月05日

サマリー

◆近年、人的資本投資の重要性が、産官学の各方面から指摘されている。背景には、人手不足解消や、賃上げ、企業成長への関心の高まりがある。更に、日本の経済構造の変化を受けて、人的資本投資の主体を、企業から個人へと移す必要性も指摘されている。

◆しかし、厚生労働省の調査では、2024年に自己啓発をした労働者は36.8%に留まる。単純集計値で見ると、正社員と非正社員や、男女、学歴などで差があるほか、実施の際の問題点としては、仕事の忙しさや家事育児の負担等が挙げられている。

◆どのような人が自己啓発に時間を費やしているのかをより詳しく分析するため、NIRA総合研究開発機構が保有する 18歳~64歳の勤労者の個票データを対象に、自己啓発の時間と深い関連を持つとみられる属性や要素について、トービットモデルと呼ばれる手法を用いて定量分析した。

◆定量分析からは、①転職志向が強い場合は自己啓発の時間も長い、②未就学児が居る場合は自己啓発の時間が短い、③女性の自己啓発の時間は家事・育児・介護時間等を統計的にコントロールしても短い傾向にある、という3つの主要な示唆を得た。

◆これらの結果は、自己啓発の促進には個人の意識だけでなく、子育て負担の緩和や、女性のキャリア形成支援など、社会的な環境整備が不可欠であることを示唆する。したがって、政府や企業には、こうした個人の多様な属性や社会的背景を考慮した、きめ細やかな自己啓発の支援策を講じていく必要がある。

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