出産・育児が生み出す男女の所得格差の実態

日本のChild Penaltyを推計

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2024年10月08日

サマリー

◆Child Penalty(以下、CP)とは、出産や育児によって、主に女性の就業率、賃金、労働時間などが低下、または減少してしまうことを指す。本稿では第一子出産前を基準に、日本において第一子出産後にこれらの指標がどの程度低下・減少するか、イベント・スタディという手法を用いて個人データを基に推計した。

◆女性就業者の第一子出産前から出産後の減少幅であるCPを見ると、①就業率は約30%、②賃金は約50%、③労働時間は約50%、という結果になった。第一子出産後の時系列の変化を見てもCPの縮小幅は限定的であり、これらのCPが長期的に男女の所得格差に影響していると考えられる。ただし、先行研究などの結果と比較して、日本の女性におけるCPは過去に比べてやや縮小傾向にあり、男女の所得格差はわずかに改善している可能性がある。

◆諸外国においてCPは、家族政策(①仕事と育児の両立支援策、②公的な育児支援、③父親の育児参加の奨励)によって縮小してきた背景があり、日本でも制度の拡充は進んできているが、家族政策だけでは不十分であることを指摘する研究もある。なぜならば、家族政策では対処できないジェンダー規範や労働市場の構造などがCPに大きく影響するからだ。

◆日本では同一企業内での長期的なキャリア形成や長時間労働が評価されやすく、CPが発生しやすい労働市場の構造となっている。特に、出産・育児をきっかけに女性の賃金や労働時間が大幅に減少したところを見ると、正規からの非正規転換や、時短労働、配置転換によって出世コースから外れ、いわゆるマミートラックに乗ってしまうことが大きな問題である可能性が高い。

◆日本において女性のCPを減らすためには、家族政策の他、ニーズに合った保育サービスの中身の改善、働き方改革や意識改革など様々な施策が必要となるだろう。日本における男女の所得格差を是正するには多面的な改革が求められる。

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