サマリー
◆Child Penalty(以下、CP)とは、出産や育児によって、主に女性の就業率、賃金、労働時間などが低下、または減少してしまうことを指す。本稿では第一子出産前を基準に、日本において第一子出産後にこれらの指標がどの程度低下・減少するか、イベント・スタディという手法を用いて個人データを基に推計した。
◆女性就業者の第一子出産前から出産後の減少幅であるCPを見ると、①就業率は約30%、②賃金は約50%、③労働時間は約50%、という結果になった。第一子出産後の時系列の変化を見てもCPの縮小幅は限定的であり、これらのCPが長期的に男女の所得格差に影響していると考えられる。ただし、先行研究などの結果と比較して、日本の女性におけるCPは過去に比べてやや縮小傾向にあり、男女の所得格差はわずかに改善している可能性がある。
◆諸外国においてCPは、家族政策(①仕事と育児の両立支援策、②公的な育児支援、③父親の育児参加の奨励)によって縮小してきた背景があり、日本でも制度の拡充は進んできているが、家族政策だけでは不十分であることを指摘する研究もある。なぜならば、家族政策では対処できないジェンダー規範や労働市場の構造などがCPに大きく影響するからだ。
◆日本では同一企業内での長期的なキャリア形成や長時間労働が評価されやすく、CPが発生しやすい労働市場の構造となっている。特に、出産・育児をきっかけに女性の賃金や労働時間が大幅に減少したところを見ると、正規からの非正規転換や、時短労働、配置転換によって出世コースから外れ、いわゆるマミートラックに乗ってしまうことが大きな問題である可能性が高い。
◆日本において女性のCPを減らすためには、家族政策の他、ニーズに合った保育サービスの中身の改善、働き方改革や意識改革など様々な施策が必要となるだろう。日本における男女の所得格差を是正するには多面的な改革が求められる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
2025年8月消費統計
サービス消費が強く、総じて見れば前月から小幅に増加
2025年10月07日
-
財政悪化が日本経済にもたらす影響とリスクの定量評価
成長力強化と財政健全化で将来の財政危機発生リスクの抑制を
2025年10月07日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日