サマリー
◆2025年2月25日から同年3月2日に、人工知能分野で最も権威ある学会の1つである、Association for the Advancement of Artificial Intelligence(AAAI)の年次会議へと出張する機会を得た。現地では3,029件に及ぶ研究が発表されており、交流や基調講演を通じて、第一線を走る研究者たちの声を直接聞くことができた。
◆AIの長期的な方向性に関して、この分野の第一人者で基調講演者だったAndrew Ngスタンフォード大学教授の予想は必見だ。彼がかねて発展を主張していた、自律的に作業できるAIが一連の流れを作り作業する「エージェント・ワークフロー」は、今や現実となりつつある。そして、10倍の影響力を持つ頭脳労働者「10倍プロフェッショナル」の出現予想などは、今後AI時代に企業や労働者がどう対処すべきかを示唆する。
◆金融経済分析へ直接的に応用できそうな研究としては、LLMに政治家の個人情報やスポンサー情報を入力した法案投票シミュレーションなどが興味深かった。経済関連法案や日本銀行の金融政策などへの拡張が期待される。また、時系列シミュレーション結果を統合する公衆衛生分野向けの手法のDTW+Sなども興味深い。政策立案者による複数の経済政策シミュレーション間のコンセンサス形成を、より高度にする可能性がある。
◆社会に与える影響の点では、「Mamba」と「連合学習」の2技術が注目される。Mambaは現状のLLM等が依拠する技術を代替する可能性がある。その高速で高性能な様子は、著者としてはDeepSeekショックを想起する。また、連合学習はプライバシーを保護したAI学習を可能とし、多分野での大規模なモデル開発等を加速させそうだ。
◆中長期的には、「時系列基盤モデル」という、全ての時系列データの分析や予測を1つのモデルで行う手法も注目だ。現状では金融経済分野で実用レベルに至らないが、もし花開けば、例えば個人投資家向けの分析アプリ開発競争が始まるかもしれない。
◆AIの性能向上には、半導体の計算能力向上だけでなく、画期的な新手法での計算量削減や画期的な新使用方法の発展も影響する。今回のAAAIで得た知見を踏まえると、しばらく発展は止まらないだろう。その中で、金融資本市場は便利な手法などを積極的に取り入れつつ、急に金融資本市場の潮目が変化する局面などを警戒する必要がある。また、頭脳労働者や企業は、自身や従業員が持つスキルを、AI時代に相応しいものへと変えていかなければならないだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
大和物価センチメント指数開発の試み
CPIとの間に高い相関および先行性を有する指数の開発に成功
2024年12月26日
-
金融経済分析を変える自然言語処理の力② 大規模言語モデルの登場と今後の展望
高い精度や幅広い応用性に魅力も全ての従来手法は代替されないか
2024年11月01日
-
金融経済分析を変える自然言語処理の力① 従来のテキスト分析が与えたインパクト
定性的なテキストを定量的に測る能力などに従来から大きな魅力
2024年09月19日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年1-3月期GDP(1次速報)予測 ~前期比年率+0.5%を予想
外需が下押しも内需は堅調/小幅ながら4四半期連続のプラス成長
2025年04月30日
-
2025年3月鉱工業生産
自動車工業や電気・情報通信機械工業など10業種が前月から低下
2025年04月30日
-
急速に広がる資格情報等のデジタル化
利用時に気をつけるポイントと求められるデジタルリテラシー
2025年04月28日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日