サマリー
引き続き、先進国経済の行方を左右しているのがインフレ動向である。直近のインフレ率は市場予想を上回るペースで鈍化しており、大幅な追加利上げの必要性が低下し、過度な景気悪化は回避されるかもしれないという見方が高まった。減速するが、近い将来の景気低迷は短期間で軽微にとどまるという、いわゆるソフトランディングへの期待が米国を中心に強まっている。
もっとも、今後もインフレ率が順調に鈍化していくかは不透明で、ソフトランディングへの道は隘路になるとみられる。足元では、景気・インフレ見通しを左右する様々な要因が顕在化している。世界各地で猛暑や大雨といった異常気象に見舞われ、人々の通常の生活が妨げられている。不要不急の外出を控えるようにという呼びかけはコロナ禍のロックダウンを想起させ、夏のバカンスシーズンを迎えた観光関連業に打撃となる他、異常気象は農作物生産にも影響しよう。ウクライナの穀物輸出停止と相俟って、食料品価格の上昇圧力に晒される可能性がある。
また、欧米ではストライキが頻発している。高インフレを受けて、賃上げや年金・健康保険等の福利厚生の改善など、より良い労働環境を求める動きだが、米国のエンターテインメント業界の場合、新しい技術であるAIの利用によって自分たちの仕事が打撃を被るとして、規制も要求している。ストライキ期間中はビジネスがストップするため(サービスの供給停止)、長期化するほど経済損失は膨らむ一方、企業は、増加する労働コストをいずれ価格に転嫁するだろう。
2023年上期の中国経済はロックダウン解除からの景気加速が期待されたが、4-6月期の成長が市場予想を下回る等、早くも息切れの様相である。中国向け輸出の増加を見込んでいた海外の企業からすると、当てが外れてしまった。逆に、先進国の景気減速に加えて、中国に対する新たな戦略を打ち出したドイツをはじめとする欧州や米国で進む、中国との付き合い方を見直す動きは、輸出を増やしたい中国にとってもマイナスであろう。外需に期待できない分、強力な内需喚起策を求める動きが出てこよう。いずれにせよ、国際貿易の停滞は世界経済にマイナスだ。
このように、2023年後半以降も、世界経済の方向感が定まらない状態が続くとみられる。
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