最低賃金引き上げで経済は活性化するのか

最低賃金は国際的に見て低くなく、経済政策としての有効性は不明確

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2019年08月20日

  • 経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司
  • 経済調査部 エコノミスト 小林 若葉
  • 経済調査部 エコノミスト 田村 統久

サマリー

◆日本の最低賃金は国際的に見て低いといわれる。だが、各国の経済構造や就業形態等の違いの影響を受けにくい1人当たり家計消費額対比で見ると、日本はOECD加盟国の平均値並みであり、米国やカナダよりも高い。また、同じ指標を用いて都道府県別に比較すると、概ね同水準にある。最低賃金額の高い(低い)地域で働けば生活費も高く(低く)なるため、最低賃金額の地域差は人口移動を促す要因には必ずしもならない。

◆最低賃金引き上げは消費活性化やデフレ脱却、企業の生産性向上に資すると期待されている半面、雇用の減少や設備投資の抑制などにつながる恐れがある。先行研究を見ると、最低賃金の引き上げは雇用に負の影響を与えるとする分析が多く、生産性への影響は不明確である。日本に関する先行研究は限られているが、同様の見解が示されることが多い。

◆最低賃金は一般労働者やパートタイム労働者の賃金上昇率を上回るペースで引き上げられてきた。それでも悪影響が見られなかったのは、好調な経済環境や、幅広い産業で人手不足感が強まったというマクロ要因が大きかったためと考えられる。だが、こうした状況は変わりつつあり、多くの産業でパートタイム労働者への需要減少が見られる。最低賃金は社会の支え手の拡大・強化や格差是正を図る観点から今後も引き上げていく必要があるものの、経済実態に即した緩やかなペースでの賃上げが求められる。

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