第202回日本経済予測
外需が悪化する中で内需が下支え ①米中摩擦による生産移管、②個人消費、③最低賃金、を検証
2019年08月16日
サマリー
- 経済見通しを改訂:19年度+0.9%、20年度+0.4%:2019年4-6月期のGDP発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の見通しは2019年度が前年度比+0.9%、2020年度が同+0.4%である。先行きの日本経済は、駆け込み需要が発生し得る2019年7-9月期まで成長が続いたのち、①世界経済の減速に伴う輸出低迷に加えて、②在庫調整、③稼働率の低下を受けた設備投資の伸び鈍化、④雇用増加ペース鈍化に伴う消費の足踏み、⑤消費税増税を背景に、潜在成長率を若干下回る低空飛行を当面続ける公算が大きい。
- 論点①:米中摩擦を受けた生産移管の日本への影響は?:FRBによる予防的利下げに加え、2020年の大統領選挙に向けた拡張財政が米国経済の支えとなり得ることなどを背景に、米国の中国に対する強硬姿勢は維持されよう。米中対立の長期化が見込まれる中、企業による中国から第三国・地域への生産移管の動きが見られているが、こうした動きは今後一層加速すると予想される。ただし、日系企業では、中国現地法人からの米国向け輸出の割合が低いことから、生産移管は限定的となろう。また、世界的な生産移管の進展は日本の資本財輸出を誘発する可能性があるものの、中国での投資停滞による負の影響も勘案すると、その恩恵に過度な期待はできない。
- 論点②:内需の鍵を握る個人消費の行方は?:二人以上勤労者世帯では、共働き世帯の増加等により可処分所得が大きく増加している一方、50代・60代を中心に消費を抑制している。50代・60代では、やりくりをして必需的支出を概ね一定に保つと同時に、選択的支出を大きく減らし貯蓄を積み増している。節約志向が強まる要因として、①教育費の増加、②通信費の増加、③遺産を目的とする貯蓄の積み増し、が挙げられる。しかし、先行きは①教育無償化、②携帯電話通信料の値下げ、③贈与税非課税枠の拡大等によりこれらの要因はいくらか緩和されそうだ。また、消費増税の際には各種の経済対策等が実施される予定であり、消費が腰折れする可能性は小さいとみている。
- 論点③:最低賃金引き上げで日本経済は活性化するのか?:日本の最低賃金は諸外国に比べて低いといわれるが、各国の経済構造や就業形態等の違いの影響が反映されにくい1人当たり家計消費額対比で見てみるとOECD加盟国の平均値並みであり、米国やカナダを上回る。同様に都道府県別に比較すると、地域差は見られず、最低賃金額の高い都市部で働けば地方よりも金銭的な余裕が生まれるとは限らない。先行研究を見ると、最低賃金の引き上げは雇用に負の影響を与える可能性がある。労働生産性にも正の影響を及ぼすとは断定しがたい。最低賃金の引き上げは社会の支え手の拡大強化や格差是正を図る観点から今後も重要だが、経済実態に即した緩やかなペースでの賃上げが求められる。
- 日銀の政策:予測期間中のCPIは、2019年度は前年比ゼロ%台半ば、2020年度はゼロ%台前半で推移すると見込まれるため、日銀は非常に緩和的な金融政策を継続するとみている。米欧中央銀行の金融緩和姿勢が強まる中、当面、小幅な追加金融緩和が視野に入る展開が予想される。
【主な前提条件】
(1)公共投資は19年度+4.7%、20年度+1.7%と想定。
(2)為替レートは19年度107.5円/㌦、20年度106.5円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は19年+2.4%、20年+2.0%とした。
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