サマリー
ドル高などに起因する米国景気鈍化懸念が和らぎ、同国株価は回復、世界的にもリスク・オフ的な状況は後退している。ただし米国では労働需給のひっ迫により賃金上昇率が加速してきており、今後実施されるであろう数次の利上げは、堅調な景気拡大の帰結というよりも、反インフレ政策へと、その位置づけを微妙に変えつつある。同国景気の拡大の持続性への疑義は、今後もしばしば金融市場を揺るがす要因となろう。もちろん、仮に米国景気が息切れとなっても、中国の減速が止まれば、世界経済は一安心ということになる。しかし現状、中国において持ち直しの兆しがみられるのは不動産関連投資などに限られ、中国政府には無駄にならない公的投資、消費インセンティブの付与などの景気対策が求められる。2月下旬に行われたG20財務相・中央銀行総裁会議では金融緩和への過度の依存を改め、財政を活用していくことの必要性が謳われたが、米国に関しては景気が循環的に成熟しており、財政刺激策などによってその延命を図ることには限界がある。一方、ユーロ圏では足下で景況感が軟化する気配がみられ、その下支えを図るべく財政政策が有効に機能する余地は大きい。しかし、政治的調整の困難さがその実現の大きなハードルとなろう。従って、財政政策の活用によって世界経済の悪化を止めるという文脈において、最も重い責務を担っているのは中国に他ならない。しかし、4兆元対策のトラウマなどから、中国が有効な政策を打ち出せない、ないしは政策で相殺不可能なほどの調整圧力が残存するということであれば、世界経済の一段の停滞リスクが高まることになる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
中国:景気テコ入れへ打てる手はまだある
2016年の成長率目標は6.5%~7%
2016年03月22日
-
欧州経済見通し ECBの戦いは続く
BOEは国民投票実施に伴う景気停滞を警告
2016年03月22日
-
米国経済見通し 内需堅調でインフレを注視
選挙戦が長引けば利上げ先送り要因に
2016年03月22日
-
日本経済見通し:伊勢志摩サミットに向けた国際政策協調がカギ
海外発で日本経済の下振れリスクが強まる
2016年03月22日
同じカテゴリの最新レポート
-
企業の賃金設定行動の整理と先行きへの示唆
~生産性に応じた賃金決定の傾向が強まる可能性~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
石破政権の経済政策に求められるもの
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
最新のレポート・コラム
-
カーボンクレジット市場の新たな規律と不確実性
VCMI登場後の市場と、企業に求められる戦略の頑健性
2025年07月24日
-
金利上昇下における預金基盤の重要性の高まり
~預金を制するものは金融業界を制す~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
企業の賃金設定行動の整理と先行きへの示唆
~生産性に応じた賃金決定の傾向が強まる可能性~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
「外国人優遇」は本当か?データで見る国民健康保険・国民年金の実態
2025年07月25日
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日