2025年09月01日
サマリー
◆2025年前半、日本の証券業界はインターネット取引サービスでの不正アクセス・不正取引の被害に揺れた。犯罪組織が多数の証券口座を乗っ取り、株式を不正売買したとみられる。2025年7月15日、金融庁と日本証券業協会は証券口座の乗っ取り事件を受け、インターネット取引における認証方法や不正防止策を強化すべく、それぞれ「『金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)」(以下、監督指針改正案)および「『インターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドライン』の改正について(案)」(以下、ガイドライン改正案)を公表した。
◆米国では日本よりも先に、証券口座の乗っ取りによる株式やオプションの不正取引が発生していた。これを受け、金融業規制機構(FINRA)や証券取引委員会(SEC)は多要素認証の導入を強く推奨し、フィッシング攻撃や内部脅威への対策を促してきた。また、SEC規則でも個人情報保護やインシデント対応計画の策定、情報漏洩時の顧客通知義務などが定められた。米国証券業界では、多要素認証をはじめとする不正アクセス等防止策が事実上の業界標準になっていると考えられる。
◆監督指針改正案では、インターネット取引に特有のリスクを踏まえ、内部管理態勢・セキュリティ確保・顧客対応の3点を主な着眼点として、多要素認証の実装および必須化や不正アクセス検知・通知システムの導入などが求められている。また、ガイドライン改正案も重要な操作時の多要素認証を「対応が必要とされる事項」に引き上げるとともに、不正アクセス発生時の関係機関への報告・連携強化を義務付けた。
◆監督指針改正案およびガイドライン改正案は、特にフィッシング詐欺対策に重点を置いている。今後の証券業界では、単に複数の認証要素を組み合わせるだけでなく、公開鍵暗号方式を用いた多要素認証などを採用し、フィッシング詐欺対策に取り組むことが求められる。なお、生体認証はフィッシング耐性のある多要素認証の構成要素であるものの、すべての生体認証がフィッシング耐性のあるものと認められるわけではない点には注意が必要であろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月27日
-
パスワード漏洩に関する考察
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月24日
同じカテゴリの最新レポート
-
開示府令の改正案が公表(2026年から一部適用)
有価証券報告書のサステナビリティ情報、人的資本、総会前開示に関する改正案
2025年12月10日
-
フィンフルエンサーの規制と取締りに関する海外動向
国境を越えた規制協力、フィンフルエンサー向け教育や認証制度の必要性
2025年11月19日
-
政策保有株式の縮減状況~2024年版~
保有銘柄数・保有額は前年比で2割程度の縮減
2025年11月11日
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日


