サマリー
◆ECB(欧州中央銀行)は3月10日の金融政策理事会で、利下げと量的緩和の双方を含む包括的な追加緩和策を決めた。原油安に加え、世界経済の見通しが不透明になる中で、インフレ率予想が大きく下方修正されたことを受けての措置である。同時に、資産買取プログラム(APP)の限界や、超低金利政策の副作用を指摘する声への配慮もみられる。APPの買取資産に非金融機関の債券が加えられ、また国際機関債の買取上限が引き上げられ、購入可能資産が早晩なくなるとの懸念を封じようとしている。また、TLTRO II(使途を限定した長期オペ)の導入で銀行に資金調達コストを下げる選択肢を提供し、超低金利が銀行収益を圧迫しているとの批判に対応した。直近のユーロ圏の景気指標は小売売上高、新車販売、鉱工業生産は伸びたが、輸出と景況感指標が悪化した。ECBは貸出金利低下や原油安が消費と投資の追い風となり、ポートフォリオ・リバランス効果を通じて資産価格が上昇することを期待している。とはいえ、景気下振れリスクが高まる中でインフレ期待の低下が継続するようであれば、ECBは資産買取プログラムのさらなる拡大に踏み込むと予想される。
◆ECBに加えて日米の金融政策が注目された中、BOE(英中銀)の3月の金融政策理事会は特に関心をひかないまま政策金利と資産買取金額の据え置きを全会一致で決定した。英国は消費が牽引して+2%程度の成長を続けるものの、外需の落ち込みがリスク要因であり、インフレ率はターゲットである前年比+2%を回復するまでに時間を要するとの見方は2月のインフレーション・レポートと変わらない。ただ、景気下振れリスクとして、6月23日に実施が決まった英国の国民投票が新たに指摘された。EU離脱のデメリットを解説し、EU残留を訴えるキャンペーンが始まっているが、世論調査は引き続き残留派と離脱派が拮抗している。国民投票ではEU残留が選択されると予想するものの、それがはっきりするまで消費や投資が手控えられてしまうリスクがある。なお、金融政策理事会と相前後して発表された2016年度予算と今後5年の財政計画では、従来通り財政緊縮を継続し、2019年度の財政収支の黒字転換が見込まれている。ただし、足下の景気不透明感の高まりを考慮して2016年度と2017年度の歳出削減ペースは2015年秋の計画よりやや鈍化した。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 追加関税の影響が顕在化
米国向け輸出が急減、対米通商交渉の行方は依然不透明
2025年06月24日
-
欧州経済見通し 対米通商交渉に一喜一憂
米英合意、米中間の関税引き下げは朗報、EUの交渉は楽観視できず
2025年05月23日
-
1-3月期ユーロ圏GDP 成長ペースは再加速
市場予想を上回る良好な結果、ただし先行きは減速へ
2025年05月01日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日