サマリー
◆本稿(前編)では、シミュレーションに基づき、米国の金融政策の変更が債券・為替市場および実体経済に与える影響を定量的に分析した。試算結果によれば、市場予想を上回る資産圧縮と時間軸効果の剥落を端緒とする長期金利上昇はドルの増価と米国の実体経済(生産・物価)に対する小幅な減速圧力をもたらすことが示唆された。
◆しかしあくまでこれらはシミュレーションの結果にすぎない。基軸通貨であるドルの供給量を左右する米国の金融政策の変化は国際的なマネーフローを左右し、①国際的な流動性供給の縮小、②国際的裁定を通じた要求収益率の上昇、③ドルの実効レート上昇に伴うドルペッグ国の為替・金融政策の維持困難化などの副作用をもたらすと考えられる。これらの副作用に対する懸念を増幅するような政策発表が行われた場合、シミュレーション結果から大きく乖離して金利・為替市場の価格形成が行われる可能性には十分な注意が必要である。本稿(後編)ではマネーフローの変調が世界各国・地域に与えうる影響のうち、特に留意しておくべき点について、先進国・新興国のストック・フロー両面の国際収支から網羅的な検証を行った。
◆仮に金融市場のストレスが伝播した場合、世界的に投資家のリスク許容度が低下し、ドルは対リスク通貨で増価、対安全通貨で減価が進むだろう。国際収支上の資金の出し手である日本の通貨は安全通貨と見られ、こうしたケースにおいてはシミュレーション結果とは逆に、ドルを含む多くの通貨に対して円は増価すると見込まれる。ただし、こうした懸念が払拭されるような(市場予想よりも緩和的な)政策変更および声明文が発表された場合には、逆に円安圧力が働くだろう。
◆端的に体系化するならば、QE3縮小後のFRBの金融政策が①市場予想よりも緩和的であった場合にはドル実効レートの減価が見込まれる一方、日本円の対ドルレートは日米金利差縮小に伴う増価圧力とリスク許容度の上昇に伴う減価圧力の綱引きの中で決定されると見込まれ、②引締め的ではあるものの市場予想から大きく乖離しないマイルドなものにとどまる場合、ドルの実効レートは増価し、日本円は対ドルでの減価が見込まれるが、③市場予想を大きく上回る引締めが国際的なマネーフローの変調を通じて世界景気の腰折れにつながるような場合、ドルの実効レートが大きく増価すると同時に、安全通貨である日本円が対ドルでも増価に向かうと予想される。
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