2025年06月10日
サマリー
◆東京証券取引所(東証)のグロース市場では、「スモールIPO」が定着している。上場後に高い成長を実現する企業も少なく、グロース市場全体の株価が低迷する中で、東証は上場基準の引き上げや情報発信支援を検討している。2025年1月には、IPOをめぐる課題について証券会社や監査法人等の関係者と定期的に意見交換を行う場として、IPO実務連携会議(2025年4月よりIPO連携会議に改称)が設置された。同会議の主な問題意識は、①企業成長の手段であるIPOが目的化していること、②IPO準備に関する不正確な情報が飛び交っていることの2点である。
◆前者のIPOの目的化に関して、東証はグロース市場上場企業に対し、2024年6月より上場目的の開示を要請している。しかし、IPO関係者からは形式的な開示にとどまっているとの指摘がIPO連携会議内でなされている。同会議での議論を踏まえると、今後、上場準備会社の経営者はIPOのメリット・デメリットを十分に考慮したうえで、上場目的を開示していくことが求められよう。
◆後者のIPO準備をめぐる不正確な情報の存在に関連して、東証は上場審査における考え方を正しく経営者に示すべく、2024年5月に「上場審査に関するFAQ集」を公表している。IPO連携会議でもIPO準備を進めるうえで基本となる考え方や留意点をまとめた類似のFAQ集が作成される見込みである。取引所だけでなく、証券会社や監査法人の目線も取り入れたものとなることが期待される。上場準備会社にとっては、上場後の高い成長につながるIPOを理解するための重要な資料となろう。
◆上場準備会社のコーポレートガバナンス強化に向けては、監査法人の役割拡大が期待される。監査法人は継続的に会社に関与する主体として、取引所や証券会社と連携を図り、上場準備段階から上場後の高い成長を見据えた体制整備をサポートしていくことが求められよう。また、日本のスタートアップ経営者がスモールIPOを急かされる背景の一つには、ベンチャーキャピタルの資金回収需要がある。IPOに依らない資金回収を可能とするためには、M&Aの活性化や非上場株式の流動化が必要となろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
成長と新陳代謝を促進するグロース市場改革
スタンダード市場への影響も注視
2025年05月12日
-
英国が非上場株式の流通市場を創設へ
非上場株式のセカンダリー取引を促進する「PISCES」とは
2025年04月03日
-
グロース市場版「PBR改革」の要請
停滞脱却に向けたグロース市場改革
2025年03月04日
-
令和6年金商法等改正法、成立
公開買付け、大量保有報告、資産運用業、非上場有価証券など
2024年05月23日
同じカテゴリの最新レポート
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
他市場にも波及する?スタンダード市場改革
少数株主保護や上場の責務が問われると広範に影響する可能性も
2025年12月03日
-
CGコードでの現預金保有の検証に対する上場会社の懸念
一見対立しているようだが、通底する投資家と会社側の意見
2025年11月07日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日


