上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは

グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討

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  • 金融調査部 研究員 谷 京

サマリー

◆東京証券取引所(東証)のグロース市場では、「スモールIPO」が定着している。上場後に高い成長を実現する企業も少なく、グロース市場全体の株価が低迷する中で、東証は上場基準の引き上げや情報発信支援を検討している。2025年1月には、IPOをめぐる課題について証券会社や監査法人等の関係者と定期的に意見交換を行う場として、IPO実務連携会議(2025年4月よりIPO連携会議に改称)が設置された。同会議の主な問題意識は、①企業成長の手段であるIPOが目的化していること、②IPO準備に関する不正確な情報が飛び交っていることの2点である。

◆前者のIPOの目的化に関して、東証はグロース市場上場企業に対し、2024年6月より上場目的の開示を要請している。しかし、IPO関係者からは形式的な開示にとどまっているとの指摘がIPO連携会議内でなされている。同会議での議論を踏まえると、今後、上場準備会社の経営者はIPOのメリット・デメリットを十分に考慮したうえで、上場目的を開示していくことが求められよう。

◆後者のIPO準備をめぐる不正確な情報の存在に関連して、東証は上場審査における考え方を正しく経営者に示すべく、2024年5月に「上場審査に関するFAQ集」を公表している。IPO連携会議でもIPO準備を進めるうえで基本となる考え方や留意点をまとめた類似のFAQ集が作成される見込みである。取引所だけでなく、証券会社や監査法人の目線も取り入れたものとなることが期待される。上場準備会社にとっては、上場後の高い成長につながるIPOを理解するための重要な資料となろう。

◆上場準備会社のコーポレートガバナンス強化に向けては、監査法人の役割拡大が期待される。監査法人は継続的に会社に関与する主体として、取引所や証券会社と連携を図り、上場準備段階から上場後の高い成長を見据えた体制整備をサポートしていくことが求められよう。また、日本のスタートアップ経営者がスモールIPOを急かされる背景の一つには、ベンチャーキャピタルの資金回収需要がある。IPOに依らない資金回収を可能とするためには、M&Aの活性化や非上場株式の流動化が必要となろう。

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