2023年01月12日
サマリー
◆2023年4月1日に解禁されるデジタル給与払いにより、労働者の賃金の流れが、預貯金口座を提供する銀行その他金融機関からキャッシュレス決済サービスなどを運営する資金移動業者へと部分的にシフトする見込みだ。それに伴う金融ビジネスや金融システムへの影響が注目される。
◆労働者のデジタル給与払いに対するニーズは一定程度存在するものの、その普及には課題も少なくない。広く普及するには相当の時間がかかる見込みであり、当面は、デジタル給与解禁が銀行を中心とした既存の金融ビジネス環境を劇的に変えるゲーム・チェンジャーとはならないとみられる。
◆賃金市場の規模に関して、2021年の民間の給与所得者数は5,921万人、その給与総額は約225兆円となっており、その市場規模はかなり大きい。ただし、デジタル給与に係る口座残高の上限額により、「賃金争奪戦」の対象は最大でも約59兆円となり、実際の利用状況を想定すると、それよりかなり限定的な規模になる見込みだ。
◆長期的には、キャッシュレス化の進展とデジタル給与払いの普及が相互作用的に進むというシナリオも想定される。また、デジタル給与払いの解禁を起点に、金融ビジネスにおいて、銀行・証券会社・資金移動業者のビジネスをシームレスにつなげるような「銀証資の経済圏」を構築する動きが今後進展する可能性が考えられる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
デジタル給与は銀行の土台を崩す「蟻の穴」となるか?
2021年02月02日
-
デジタル給与がもたらす金融サービスの変革と課題
銀行ビジネスを揺るがす「ゲーム・チェンジャー」となるか?
2021年05月10日
-
デジタル給与解禁と労働者保護を巡る課題
そもそも、なぜ賃金の支払い方法が拡充されてきたのか?
2023年01月11日
-
キャッシュレス新時代の扉を開くための6つの鍵
「トリプル・ウィン」の精神で全体最適の実現へ
2019年05月22日
-
日本版CBDCを先読みするための7つの論点
銀行やキャシュレス決済事業者、金融市場関係者等への影響を探る
2022年06月02日
同じカテゴリの最新レポート
-
金利上昇下における預金基盤の重要性の高まり
~預金を制するものは金融業界を制す~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
地方銀行の越境再編
その土台にある地域経済圏の再構築
2025年07月11日
-
ステーブルコイン推進へ舵を切る米国(後編)
GENIUS法案は如何にして米ドルの支配的地位を補強するか
2025年06月13日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日