デジタル給与解禁後の展望と金融ビジネスへの示唆

「銀証資の経済圏」の構築が若年層の囲い込みの鍵へ

RSS

サマリー

◆2023年4月1日に解禁されるデジタル給与払いにより、労働者の賃金の流れが、預貯金口座を提供する銀行その他金融機関からキャッシュレス決済サービスなどを運営する資金移動業者へと部分的にシフトする見込みだ。それに伴う金融ビジネスや金融システムへの影響が注目される。

◆労働者のデジタル給与払いに対するニーズは一定程度存在するものの、その普及には課題も少なくない。広く普及するには相当の時間がかかる見込みであり、当面は、デジタル給与解禁が銀行を中心とした既存の金融ビジネス環境を劇的に変えるゲーム・チェンジャーとはならないとみられる。

◆賃金市場の規模に関して、2021年の民間の給与所得者数は5,921万人、その給与総額は約225兆円となっており、その市場規模はかなり大きい。ただし、デジタル給与に係る口座残高の上限額により、「賃金争奪戦」の対象は最大でも約59兆円となり、実際の利用状況を想定すると、それよりかなり限定的な規模になる見込みだ。

◆長期的には、キャッシュレス化の進展とデジタル給与払いの普及が相互作用的に進むというシナリオも想定される。また、デジタル給与払いの解禁を起点に、金融ビジネスにおいて、銀行・証券会社・資金移動業者のビジネスをシームレスにつなげるような「銀証資の経済圏」を構築する動きが今後進展する可能性が考えられる。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

執筆者のおすすめレポート