COP21に向けた地球温暖化対策(その5)

地球温暖化の悪影響を回避する“適応計画”をめぐる課題

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2015年11月17日

  • 大澤 秀一

サマリー

◆気候変動対策は、温室効果ガスの排出を削減する“緩和”とともに、すでに現れている悪影響に対して“適応”を進めることが重要とされる。日本政府はこれまで緩和を先行して取組んできたが、近年、頻発する異常気象や気象災害等の発生等を受けて、適応に対しても国家計画を策定することになった。


◆専門家による気候変動予測や影響評価等を元に、関係府省庁は適応策の策定にそれぞれ取組み、「気候変動の影響への適応に関する関係府省庁連絡会議」が個々の適応策をとりまとめて、「政府適応計画(案)」(2015年10月)を公表した。政府は、11月中に閣議決定し、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21、2015年11月30日~12月11日)の場で提出済みの緩和に関する約束草案と併せて、緩和と適応の両面で気候変動対策に取組む姿勢を示す予定である。


◆政府適応計画を実行していく上では課題もある。根拠法がないため、政府は現行の政策・施策に適応の視点を組み込んでいく(主流化させる)ことで適応計画を推進する方針を定めている。しかし、政策決定者の意思決定に作用させるには、気候変動やその影響の予測に関する研究、人間社会への影響、適応費用等の研究を一層進めて、理解を促進させる必要がある。


◆さらに、気候変動の影響は、地形や社会条件によって大きく異なることから、地方公共団体が主体となる適応計画にも取組むことが重要だが、策定はほとんど進んでいない。適応は、地域住民の人命及び財産の保全のみならず、地域産業の発展等に直結する課題でもあることから、すべての自治体がすみやかに適応の意義を理解し、計画的に取組むことが必要と思われる。


◆気候変動対策は、緩和と適応の両面から一体で進めることが重要となる。財源に関しても、緩和費用と適応費用の関係を理解した上で、費用対効果の高い施策に取組む必要がある。COP21後に策定予定の新しい地球温暖化対策計画の中に、政府適応計画の実行が担保されるような文言が盛り込まれるかが注目される。

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