ESG情報の開示と投資への利用の現状と課題
投資家が望むのは、企業価値の創造プロセスの開示
2015年08月25日
サマリー
◆2014年の世界全体のSRI市場の規模は約21.4兆ドルで、2012年時点の約13.3兆ドルから61.1%拡大している。手法別では、投資の意思決定に財務情報だけでなくESG情報も考慮するインテグレーションの市場規模が、2012年の約5.9兆ドルから2014年には約12.9兆ドルへと2倍以上に拡大していることが目立つ。
◆SRI、特にインテグレーションの市場規模の拡大は、ESG情報へのニーズの高まりを示唆しよう。また、企業価値に対する財務情報の説明力が低下していることもあり、ESG情報を必要としているのはSRIの投資家だけではないことが、ESG情報へのニーズをさらに高めていると考えられる。
◆経済産業省によるESG情報に関する企業と投資家への調査では、投資家はESG情報の取得先として統合報告書を選んだ割合が高いが、現状では、統合報告書を作成している企業は限られている。統合報告書という媒体だけでなく、CSR報告書の作成やホームページでのCSR活動の報告などに、ESG情報と経営戦略や企業価値を結び付けた情報開示を行うことでも、投資家のESG情報に対するニーズにある程度は応えることができるのではないだろうか。
◆企業はESG情報の開示として「地球温暖化防止」など個別の項目を重視しているようであるが、投資家はガバナンスやトップメッセージなどの企業経営の根幹に関わる情報を重視しており、コーポレートガバナンス・コードの導入もあって、企業価値の創造プロセスとの関係を考慮したガバナンス情報の開示の充実がますます求められるのではないだろうか。
◆今後、さらなるESG情報の開示の充実を図るとともに、企業と投資家との対話を深めることで、投資家による適正な企業価値の評価が進展し、日本経済の成長と持続可能性の向上につながることが期待される。
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