2015年10月15日
サマリー
◆株式などリスク資産への投資から得られるリターンは、αによるものとβによるものに分解できる。ESG投資は、投資プロセスにESG要因も考慮することでポートフォリオのαの獲得を目指すものと考えられよう。また、投資家が投資判断にESG要因を考慮することは、企業がESG課題に対する取り組みを進めることにつながり、社会の持続可能性の向上や経済成長に寄与することが期待され、βによるリターンの向上をもたらす可能性があろう。
◆ここで問題となるのは、ESG要因がαの源泉となるかであるが、本稿で紹介したESG要因とリターンの分析では、ESG要因がポートフォリオのαの獲得につながる可能性を示す結果が得られている。投資パフォーマンスという観点でESG投資を行っていくことの妥当性を示唆するのではないだろうか。
◆年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名したことが2015年9月28日に公表された。また、PRIに対する取組方針で、運用受託機関に対してもPRIの署名状況や活動内容等の報告を求め、署名していない場合はその理由の説明を求めている。GPIFの動向は他の年金基金等の動きにもつながる可能性もあり、今後の日本におけるESG投資の拡大が期待される。
◆ESG投資の拡大は、ESG投資に向けたデータベースを拡充し、日本におけるESG投資のパフォーマンスについての実証研究を積み重ねることがカギとなろう。実証研究の蓄積によりESG要因を用いた企業評価の手法を確立し、ファンドの運用手法やパフォーマンスなどの合理的な説明を可能とすることがESG投資の拡大につながるのではなかろうか。
◆また、どの程度の期間を想定して「他の運用方法と経済的に競合しうる」ことが求められるのかなど、受託者責任との関係について具体的な議論を深化させていくことも必要ではないか。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
ESGポートフォリオのリターン分析①
女性活躍関連のポートフォリオ
2015年02月06日
-
ESGポートフォリオのリターン分析②
企業統治関連のポートフォリオ
2015年03月11日
-
CO2排出量の動向と企業パフォーマンス
ESGポートフォリオのリターン分析④
2015年07月17日
-
ESG情報の開示と投資への利用の現状と課題
投資家が望むのは、企業価値の創造プロセスの開示
2015年08月25日
同じカテゴリの最新レポート
-
ESGスコアの成長率と企業パフォーマンス
「社会」に関する取組みの中長期的な継続と向上の重要性
2025年06月26日
-
投資家の自然資本/生物多様性に関する評価軸
Nature Action 100、Springが示す枠組み
2025年06月20日
-
スチュワードシップとESGは別モノ:英FRC
英国でスチュワードシップの定義を変更、ESG要素を削除
2025年06月13日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日