米国SECが紛争鉱物開示規則を採択

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サマリー

米国証券取引委員会(SEC)は、紛争鉱物の使用に関する開示規則を8月22日に委員5名で審議し、3対2でこれを採択した。

2010年7月に成立した「ドッド=フランク・ウォール街改革及び消費者保護に関する法律(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act 2010、以下 ドッド=フランク法)」では、SECに紛争鉱物使用開示規則の制定を委任していたが、作業は難航し、ようやく採択に至った。ドッド=フランク法第1502条に定める紛争鉱物の開示規定は、アフリカ有数の鉱物資源国で、1994年から内戦が続いているコンゴ民主共和国(Democratic Republic of Congo=DRC)と周辺域に源泉を有するコルタン(タンタル鉱石)、錫(すず)石、金、鉄マンガン重石(タングステン鉱石)、又はそれらの派生物を「紛争鉱物(Conflict Minerals)」と定義し、紛争鉱物を使用する企業に対してSECへの報告及び開示の義務を課す内容となっている。SECが定めた開示規則では、開示の大まかなアウトラインとして、(1)自社製品に紛争鉱物を使用している製造業者が、SECに対して報告書を提出している場合、(2)紛争鉱物報告書(Form SD)において、当該鉱物がDRCおよびその隣接国の原産となっているかどうかを、(3)合理的な調査を踏まえて開示することとなっている。

ドッド=フランク法による開示義務は、SECに報告書を提出している企業であれば、外国企業にも適用される。既にSEC登録している本邦企業については、影響を直接受けることになるが、今回の開示規則が企業に対して鉱物の原産国に関する合理的な調査の実施を求めていることから、SEC登録していない本邦企業も、SEC登録企業のサプライ・チェーンに含まれている場合には、何らかの影響が及ぶ可能性を排除できない点には注意が必要だろう。

紛争鉱物の開示規則に対する企業側の反発は強いものがあり、規則制定が遅れたのも、このためである。条文が不明確であり、企業の義務の範囲を明確に確定できないだけでなく、開示コストが過重になるとの声が強い。規則制定に先立ってSECが行った予想開示コストの100倍以上の負担を企業に強いるとの推計がある。これまでのところ、90億ドルから160億ドル(The National Association of Manufacturers)という推計と、79.3億ドル(Tulane University)という見通しが公表されている。この負担を回避し、又は軽減させるため、規則の施行延期、段階的施行、少量利用への適用除外(紛争鉱物の含有量が基準以下である場合には開示義務を課さない)など、規則に関する意見が産業界の団体から提出されていた。こうした産業界の意見を一部容れ、2年間(小規模企業では4年間)は、紛争鉱物か否かを決定することができない場合、「DRC紛争との関連不明(DRC conflict undeterminable)」という開示も認められ、第三者監査も不要とされたのは、当初案からの大きな変更点である。

開示は、会社の事業年度に関わらず、暦年ベースで行う。2013年の事業にかかるForm SDは、2014年5月末までに提出することとされている。

参考レポート
当社レポート「米国SEC:鉱物資源使用の開示義務」(2011年5月9日付)
大和調査季報(2012年新春号(Vol.5))「『ビジネスと人権』を巡る国際動向と企業経営への影響

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