企業の役員や管理職クラスの方から「うちの若手はおとなしい」、「もっとチャレンジ精神がほしい」、「個別に話を聞くと考えはあるようだが、自主的に提案してこない」など、若手の言動に物足りなさを感じるとの声をお聞きすることが少なくない。
なぜ部下は提案やチャレンジに消極的なのだろうか。その理由を単に世代の違いや個人の性格として片づけてしまっては、組織としての課題解決につながらない。個人差では説明できないレベルで、社員の行動特性やその結果として生み出される製品・サービスの質・量に企業間で差があることを考えれば、企業文化や制度、オフィス環境など、職場環境が社員の行動に大きく影響していることは疑いようもない事実といえよう。
1.挑戦する企業文化を支える要素とは
では、「挑戦しない社員」をより「挑戦する社員」へと変えるために、組織としてできることは何だろうか。このヒントを得るため、新製品創出力に長けたいわゆるイノベーティブな企業の企業風土や制度等を見ていくと、共通点が見えてくる。
たとえば、社員の考え方や行動に関する企業文化としては、「挑戦する」「高い目標をめざす」「常に自らを改革する」といった内容を企業が社員に向けて明確に発信していることが多い。個々の能力を最大限発揮させるため、難しい課題へ取り組むことを社員に推奨している。
同時に、このような企業では、挑戦を後押しする、もしくは挑戦への阻害要因を取り除くことにも注力している点に注目したい。代表的なものは、「フラットなコミュニケーション」、「個人の尊重」、「アイデアの尊重」、「失敗の許容」等である。こういった価値観を企業が繰り返し社員に伝えると共に、それを支える組織制度を構築しているのである。とりわけ、リスクを取り高い目標に向かって挑戦した結果としての「失敗」に対する企業の評価姿勢を示すことは重要だと筆者は考えている。

達成が難しい目標であればあるほど、その成功率は低くなる。それゆえ、「達成できる程度の目標に取り組む」のか、「達成は難しそうだがより価値のある高い目標に取り組む」のかを判断する場合、社員が後者に取り組むインセンティブを高めるには、そのプロセスや結果に対してより高い自己および他者の評価が得られる状態が望ましい。持続的なイノベーションが生まれるシリコンバレーの文化的な特徴の一つは「失敗しても挑戦し続ける人に寛容」な点だと言われる。他方、「石橋をたたいて渡る」傾向が強い日本人が多い環境では、「失敗の許容」という組織文化を醸成することの意義は大きいのではないだろうか。
2.挑戦のモチベーションを支える評価制度
新たな挑戦や試行錯誤は短期的な利益に結びつかないことも少なくない。そのため、例えば、期初に「新しい領域にチャレンジしてほしい」と部下に挑戦を推奨しながら、期末評価では短期的な数字実績に重きを置きすぎたり、挑戦した結果失敗した社員を罰するような処遇をしていたりすれば、自ずと社員はリスクを避け、挑戦しなくなってしまう。
個々人の挑戦や、アイデアを事業化するための効果的・効率的な社内連携を求めるのであれば、求める活動内容と評価指標や報酬制度を整合させる必要がある。この両者の整合性がなければ、組織としていくらすばらしい事業戦略やアクションプランを策定したとしても、期待する成果が得られない可能性が高い。
3.挑戦を事業化につなげる組織的な取り組み
イノベーティブな企業の特徴には、上記の企業文化に加え、新たなアイデアを効率的に事業化するための独自の制度を構築していることもあげられる。代表的なものは、定期的もしくは恒常的な新規事業の提案制度、事業プロセスのゲート管理システム(※1)などである。また、ビジネスアイデアを具体化するにあたり、顧客の情報や過去の開発事例を参照できる情報データベースを構築する、異なる部署のメンバーがディスカッションできる場を定期的に設ける、といったケースもある。
企業規模が大きく、開発から販売まで関与する部署や人数が多い場合には、機動的な連携体制がより重要になるだろう。
アイデアの芽をつぶさず、より多くのイノベーティブな製品・サービスを創出するためには、社員の価値観と組織体制・制度、どちらが欠けても成果に結びつかない。もし管理職の方が部下の言動に物足りなさを感じるならば、その組織的な要因を改めて整理したうえで、挑戦を促進する、もしくは挑戦の阻害要因を取り除く施策を検討されてはいかがだろうか。
(※1)たとえば、3MではNPI(New Product Introduction)システム/NTI(New Technology Introduction)システムを構築しており、新製品開発を7つのフェーズ(アイデア、コンセプト、フィージビリティ、開発、量産化、市場投入、上市後)に区分し、ゲート管理している。
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