人事・健保・退職給付
新退職給付会計基準の概要 ~割引率見直しに向けて乗り越えるべき課題~

2012年8月15日

  • コンサルティング・ソリューション第三部 小林 一樹

2012年5月17日に公表された新退職給付会計基準の大きな改正点の一つとして、割引率設定方法の変更が挙げられる。新基準では、割引率として「金額加重平均期間による単一の割引率」か「イールドカーブを用いた複数の割引率」のいずれかを選択することになる。割引率設定方法の変更は、退職給付債務の変動要因であるため、実務担当者が強い関心を寄せるテーマである。よって今回は割引率の設定方法変更に焦点を絞り、事前に検討しておくべき課題についてご紹介したい。

なお、「金額加重平均期間による単一の割引率」とは、退職給付の支払見込期間と支払見込期間ごとの金額を反映した単一の割引率を使用する方法であり、「イールドカーブを用いた複数の割引率」とは、退職給付の支払見込期間ごとに複数の割引率を設定する方法である。この2つの割引率の詳細についてはPBO『退職給付債務(PBO)計算サービス』をご参考にしていただきたい。

●スポットレートの推計
「金額加重平均期間による単一の割引率」か「イールドカーブを用いた複数の割引率」か、いずれの方法を選択した場合も、今後はイールドカーブを用いて割引率を算定することになる。イールドカーブとは残存年数の異なる複数の債券の金利を結んでグラフにしたものである。一見、「金額加重平均期間による単一の割引率」を選択した場合にイールドカーブの作成は不要のように思えるが、加重平均割引率は金額加重平均期間に対応する年限の利回りをイールドカーブに照らし合わせて決定するため、イールドカーブ作成は必須のプロセスとなる。

イールドカーブ作成時の留意点として、使用する債券の金利にスポットレートを用いる点が挙げられる。スポットレートとは複利ベースの割引債の利回りのことであるが、利付債の最終利回りのように公表されているものではないため、利付債の利回りから推計して求める必要がある。スポットレートの推計とイールドカーブの作成については「実務上対応は可能か?基準改正後のイールドカーブを使用した退職給付債務計算」(2011年10月12日)も参考にしていただきたいが、現在広く行われているように利付債の最終利回りをそのまま割引率決定の基準として利用することができない点に注意が必要である。また、推計には専門的な知識が求められることから、多くの企業では自社で対応することが困難になると思われる。この場合、計算受託機関等の専門家にサポートを依頼し、イールドカーブを入手できる体制を整えておくことをお勧めする。

●社債か国債か
イールドカーブ作成時には、参照する債券に優良社債と国債のどちらを選択するかという点も検討事項となる。適用指針ではどちらの使用も認められているが、検討の際には次の点に注意する必要がある。

  1. 社債を用いる場合
    IFRSでは優良社債を用いることが原則とされているものの、わが国の社債を使用する場合、残存年数が20年を超えるデータが極端に少ないという課題がある。退職給付制度によって、40~60年程度のイールドカーブを作成する必要があるため、実データで対応できない期間については推計が必要となる。社債を用いる場合は推計に十分な信頼性を確保できるかがポイントとなる。
  2. 国債を用いる場合
    社債に比べて残存年数が長いため、推計の信頼性は高いと言える。なお、通常は社債よりも金利が低くなるため、社債を用いた場合に比べて退職給付債務は大きくなる傾向にある。

以上の点を踏まえて参照する債券を検討する必要があるが、わが国の場合、国債を使用してイールドカーブを作成する方が推計の信頼性が高いと言える。よって現在の割引率設定に国債を用いている場合には継続して国債を用いることが合理的である。一方、現在の割引率設定に社債を用いている場合も、IFRSでは優良社債を原則としていることから、継続して優良社債を用いることも十分に合理的であると言える。いずれの場合も自社の考え方をきちんと整理したうえで、慎重に検討することが求められる。

●重要性基準の扱い
重要性基準とは、前期末に用いた割引率により算定された退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務の変動が10%以内であると推定される場合は割引率を変更しなくてもよいというものである。新会計基準適用後も重要性基準の考え方は存続するが、新会計基準の適用年度においては割引率の考え方が変わるため、重要性基準を一度リセットして割引率の見直しが求められるとする考え方が大勢を占めるように思われる。つまり、新基準の適用年度は新しい割引率で計算し、次年度以降は毎期末ごとにイールドカーブを更新して、重要性基準に抵触するか確認するという運用が想定される。

なお、重要性基準に関して実務担当者が考えておくべき課題として、毎期末の重要性基準の確認方法が挙げられる。「イールドカーブを用いた複数の割引率」の場合、期末時点のイールドカーブによる割引率と退職給付債務の変動を一律に把握することが難しいため、従来行われていたマトリクス表を用いた重要性基準の判断が難しくなる。対応として、イールドカーブによる退職給付債務の変動を即時に把握できるような準備が必要であり、例えば新基準に適合した計算ソフトの導入などは有効な解決策の一つになると思われる。

●割引率見直しに向けて検討すべき課題は多い
上記の通り、割引率の見直しにあたっては検討事項が複数存在し、それらを踏まえた上で最も合理的な方法を選択する必要がある。また、今回の改正では割引率の見直し以外にも複数の改正点が存在するため、新基準全体を見渡しながら総合的に検討を進めることが求められており、検討すべき課題は多い。検討には思いのほか時間を要することが想定されるため、企業担当者としては十分に余裕を持ったスケジュールで検討を進めることが重要となる。

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