サマリー
◆政府は、基礎年金の給付水準の低下を防ぐために、「マクロ経済スライドの調整期間の一致」を検討している。その方法は、基礎年金拠出金の按分ルール変更による方法と、厚生年金の適用拡大による方法の2つがある。本レポートではこの2つの方法によるモデル年金、再分配構造、個々人の年金額の変化について分析する。
◆モデル年金で見る限り、2つの方法の効果は似ており、いずれも基礎年金による所得代替率を現行制度より上昇させる効果が得られる。
◆再分配構造としては、按分ルール変更による方法では厚生年金から国民年金に積立金を実質的に渡すことになるのに対し、適用拡大による方法では厚生年金内部での再分配を行うに留まる。2つの方法とも制度改正による国庫負担の増加が生じるが、適用拡大による方法では、医療保険の公費節減効果で一部相殺されることとなる。再分配の観点からは、「適用拡大による調整期間の一致」の方が労使の理解を得やすく、財政的にも実現可能性が高い。
◆適用拡大による方法では、現在被用者である国民年金被保険者が厚生年金に加入することにより新たな保険料負担が生じるが、それにより、夫婦合計の平均年金額が増加したり、低年金者割合が低下したりするなどのメリットが生じる。
◆政府は、厚生年金の適用拡大の意義について労使に丁寧に説明することによって保険料負担について理解を得て、「適用拡大による調整期間の一致」を目指すべきだ。
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