サマリー
◆本レポートでは、大和総研の年金財政モデルを用いて、第3号被保険者の範囲縮小(3号縮小)、1.5号/2.5号被保険者制度の導入(1.5号/2.5号導入)を行った際の年金財政への影響を試算し、マクロ経済スライド終了時点での所得代替率(最終所得代替率)を求め、これらの改正を行わないベースシナリオと比較した。
◆3号縮小を行うと、最終所得代替率は2.2%pt低下する。第1号被保険者数の増加によって1人あたりの積立金が希薄化することで国民年金の財政は悪化し、基礎年金の給付水準が低下するためである。他方、1.5号/2.5号導入を行うと、国民年金財政の改善により基礎年金の給付水準が上昇し、最終所得代替率は1.4%pt上昇する。
◆1.5号/2.5号導入は、国庫負担を年0.7兆円程度増加させることになるが、その多くは国保の公費負担の減少によりカバーされる。事業主は年0.4兆円強の負担を求められるが、人手不足の時代において226万人の就業時間増加のメリットを受けられる。1.5号/2.5号導入は、「収入の壁」問題を解決できるだけでなく、国民全体の年金を充実させる有力な政策になり得る。
◆3号縮小は「収入の壁」問題の解決策としては不十分で、かつ、最終所得代替率が低下するため、単体での実施は望ましくない。3号縮小を実施するなら、他の施策との組み合わせを模索することとなるが、いずれにしても公的年金財政に大きな影響を及ぼすため、その効果を見極めながら、慎重に検討する必要がある。
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