「収入の壁」レポート① 第3号被保険者制度の見直しは国民年金の財政悪化の副作用をもたらす

「3号」見直しによる就業への影響試算

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2023年08月25日

サマリー

◆人手不足が加速する中、第3号被保険者制度が「収入の壁」を作り、就業調整をもたらすものとして、労使双方から見直しの意見が出ている。厚生労働省は、次期年金制度改正に向け、短時間労働者への厚生年金の適用拡大の企業規模要件の撤廃を検討している。本レポートにて制度改正時の就業への影響を試算したところ、125万人が就業調整して厚生年金の加入を回避する結果となった(ベースシナリオ)。

◆第1号被保険者は第3号被保険者より就労調整の動機が弱い。そこで、「改革シナリオ」として、企業規模要件の撤廃時に、併せて第3号被保険者制度の見直しを行った場合の就労への影響の試算も行った。具体的には、現在の第3号被保険者のうち、1984年以後生まれ世代かつ、9歳未満の子等がいない者につき第1号被保険者に移行するものとした。試算の結果、改革シナリオではベースシナリオと比べて、就業調整を行う者が28万人減少する結果となった。

◆一方、改革シナリオは第1号被保険者の増加をもたらす。第1号被保険者には年金保険料の未納や免除を受ける者が多く、ミクロの観点からは、将来の低年金・無年金者の増加が懸念される。マクロの観点からは、国民年金の財政悪化を通じて所得代替率を低下させる副作用を持つ。

◆試算からは、第3号被保険者制度の見直しは、働き方に中立的な社会保障制度を構築し就業調整を抑制する観点から有効であるが、同時に、第3号被保険者でなくなる者が着実に年金保険料を支払えるようにするための何らかの「受け皿」を同時に整備する必要があることが示唆された。

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