サマリー
◆人手不足が加速する中、第3号被保険者制度が「収入の壁」を作り、就業調整をもたらすものとして、労使双方から見直しの意見が出ている。厚生労働省は、次期年金制度改正に向け、短時間労働者への厚生年金の適用拡大の企業規模要件の撤廃を検討している。本レポートにて制度改正時の就業への影響を試算したところ、125万人が就業調整して厚生年金の加入を回避する結果となった(ベースシナリオ)。
◆第1号被保険者は第3号被保険者より就労調整の動機が弱い。そこで、「改革シナリオ」として、企業規模要件の撤廃時に、併せて第3号被保険者制度の見直しを行った場合の就労への影響の試算も行った。具体的には、現在の第3号被保険者のうち、1984年以後生まれ世代かつ、9歳未満の子等がいない者につき第1号被保険者に移行するものとした。試算の結果、改革シナリオではベースシナリオと比べて、就業調整を行う者が28万人減少する結果となった。
◆一方、改革シナリオは第1号被保険者の増加をもたらす。第1号被保険者には年金保険料の未納や免除を受ける者が多く、ミクロの観点からは、将来の低年金・無年金者の増加が懸念される。マクロの観点からは、国民年金の財政悪化を通じて所得代替率を低下させる副作用を持つ。
◆試算からは、第3号被保険者制度の見直しは、働き方に中立的な社会保障制度を構築し就業調整を抑制する観点から有効であるが、同時に、第3号被保険者でなくなる者が着実に年金保険料を支払えるようにするための何らかの「受け皿」を同時に整備する必要があることが示唆された。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
2025年1-3月期GDP(2次速報)
実質GDP成長率は前期比年率▲0.2%に改善するも民間在庫が主因
2025年06月09日
-
2025年4月消費統計
総じて見れば前月から概ね横ばい、先行きも横ばい圏で推移しよう
2025年06月06日
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日