サマリー
◆大和総研は、従業員の出産希望に応えるために、健康保険組合(健保組合)や企業が実施すべき施策を分析した。大和総研の基幹業務向けシステムを利用している400超の健保組合の最大15年分の統計データから、個別組合名、個社名が特定されない形で、健保組合別の被保険者・被扶養者の出生率を算出し、その決定要因を探った。
◆分析結果から、被保険者の出生率は、女性の平均月収や平均年齢が高い組合ほど高くなる傾向が見られた。女性のキャリア構築を可能にする職場環境の整備は、子どもを持ちたい女性従業員の希望を叶える上でも重要だ。業種別に見ると、小売業や運輸業などでは、休日や夜間の勤務の多さが出生率にマイナスの影響を与えている可能性がある。企業は、保育所やベビーシッターの利用料への助成や、配偶者の男性との家事・育児分担を促すなどして、子育て期の女性が責任ある仕事を担える体制を構築することを目指すべきではないか。
◆被扶養者の出生率は2015年度以後急速に低下しており、特に、30歳以上の有配偶の被扶養者女性でそれが顕著である。出産女性の中で被扶養者が少数派になり、被保険者である世帯との相対的な所得差が意識されやすくなったことが、子どもを持ちにくくなった要因と考えられる。健保組合や企業が行う出産費用の支援や家族手当などは、これらの世帯で子どもを持ちやすくする施策として効果を発揮しているとみられる。ただし、被扶養配偶者がパート等で働くと、配偶者への家族手当は世帯収入の増加を抑制する要因になる。企業は、配偶者への手当を子どもへの手当や基本給に振り替えるなどして、被扶養配偶者の就労を阻害しない対策を講じるべきであろう。
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