公営地下鉄の建設資金と収益状況

ネットワーク拡大から収益向上へ

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2012年05月17日

  • 中里 幸聖

サマリー

◆わが国の地下鉄は地方公営企業として運営されている場合がほとんどであり、札幌市、仙台市、東京都、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、福岡市の9つの地方公共団体が地下鉄事業を行っているが、経営のあり方に関する議論や経営改善の取組み等が行われている。

◆公営地下鉄の建設改良費は、1970年代後半まで増加基調で、その後、増減を繰り返しつつ、1996年度に3,798億円と最大となった。2001年度以降は減少基調となり、2010年度は1,599億円となっている。

◆地下鉄は建設費が巨額であるが、大都市における基本的な社会資本と位置付けられており、補助金が投入されてきた。補助金以外の建設資金は、借入れ、企業債、当該地方公共団体からの出資金等によって調達し、最終的には旅客運輸収益などの収入により手当てすることとなる。

◆資本費負担の大小が利益水準に大きく影響しているといえ、新規開業路線の比率が多いほど資本費負担がかかる傾向があるといえる。2010年度の営業利益率(対営業収支)は、大阪市、名古屋市などが2割を超えるが、京都市は赤字となっている。

◆累積欠損金は依然高水準といえ、9事業体計では2010年度で2兆9億円となっており、営業収益の3.97倍である。個別でみると、大阪市が2008年度に累積欠損金を一掃し、東京都も着実に累積欠損金残高を減らしてきている。札幌市、仙台市、名古屋市なども、営業収益対比ではやや増加あるいはあまり変化がないが、絶対額は減少している。

◆収益面からは早急な対策が必要な公営地下鉄があるが、大都市の基本的インフラとしての地下鉄の公益性を考えれば、収益性だけで全てを判断して良いとは思わない。ただし、収益性の面からみてさらなる改善を目指すのは当然であり、その一環として経営のあり方に関する議論もなされるべきであろう。

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