サマリー
◆トランプ大統領は4月2日に公表した相互関税に関して、4月9日には中国を除く国・地域に対する上乗せ税率の適用を90日間停止した。こうした変更に伴い、米国経済への悪影響は、当初の想定(4月2日時点)に比べて、幾分緩和すると考えられる。しかし、景気を押し下げ、インフレ率を押し上げるというスタグフレーションリスクが高いことに変わりはない。
◆足元の経済指標を見ると、3月の小売売上高は堅調な伸びとなり、鉱工業生産も製造業を中心に底堅い結果となった。インフレ指標に関しては、3月のCPIはヘッドラインが前月比でマイナス、コアCPIは減速した。現時点では大幅な景気悪化は見られず、インフレ指標も落ち着いているといえよう。しかし、駆け込み消費やそれに伴う企業の受注増が影響していると考えられ、先行きの反動減が想定される。また、期待インフレ率に沿って粘着性の高いインフレ指標が上昇する可能性がある。米国のスタグフレーションリスクは小さくなっておらず、米国経済に黄色信号は灯ったままといえる。
◆米国経済がスタグフレーションリスクに直面する中、FRBは様子見姿勢を維持している。インフレ再加速への警戒感から、FRBは迅速な金融政策運営が困難な状況にあり、米国の景気悪化リスクを高め得るだろう。景気悪化リスクに対しては、減税による景気の下支えが期待されている一方で、米10年債利回りが上昇するなど、財政悪化リスクも懸念されている。財政リスクを抑制するために、減税規模が縮小されれば、景気の下支え効果も抑制される。結局は、景気悪化懸念の根源である追加関税措置をマイルド化させ、景気への悪影響を軽度にとどめ、大掛かりな景気対策の必要性を低下させられるかが、米国経済および財政を巡るリスク軽減に向けて重要となろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
米国経済見通し 関税激化はいつまでか
米国内の不満の高まりを受け、関税激化の長期化は考えにくい
2025年07月22日
-
米国最大手銀行のレバレッジ比率緩和へ
トレーディング勘定で保有する米国国債をSLRの分母から除外?
2025年07月16日
-
トランプ減税2.0、“OBBBA”が成立
財政リスクの高まりによる、金融環境・景気への悪影響に要注意
2025年07月11日
最新のレポート・コラム
-
カーボンクレジット市場の新たな規律と不確実性
VCMI登場後の市場と、企業に求められる戦略の頑健性
2025年07月24日
-
金利上昇下における預金基盤の重要性の高まり
~預金を制するものは金融業界を制す~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
企業の賃金設定行動の整理と先行きへの示唆
~生産性に応じた賃金決定の傾向が強まる可能性~『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
「外国人優遇」は本当か?データで見る国民健康保険・国民年金の実態
2025年07月25日
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日