米国の賃金統計と「適温」経済の微妙な関係

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2018年02月22日

  • 児玉 卓

サマリー

米国の1月賃金統計が世界の金融市場を震撼させた。ひとまずボラティリティのピークは越えたかにみえるが、その余波の終息には至っていない。実際のところ、1月の米国の「時給」の上昇は、労働時間の減少の「結果」にすぎない可能性が高く、これをトレンドの変化と見ることには慎重であるべきと考える。差し当たり、2月の賃金統計を確認する必要があろう。とはいえ、米国の労働市場のタイト化が進んでいること、先に決まった米国の税制改革が、適温を過熱に変えてしまう可能性があることなどを踏まえれば、仮に1月の「時給」の加速が異常値であったことが判明したとしても、それをもって賃金インフレへの警戒を解除することも適当ではない。またグローバル株価下落の直接の原因となった米国金利の上昇には、同国財政赤字の拡大見通しというもう一つの背景も存在するが、こちらは相当程度、既定路線と言ってよい。米国の税制改革が同国経済の短期的なアップサイド・リスク、そしてインフレ率や金利の想定以上の上昇を通じた長期的なダウンサイド・リスクの双方を高めているとすれば、金融市場のボラティリティは比較的高い状態が続く可能性がある。適温「経済」が今しばらくの賞味期限を残す一方で、適温「相場」は終わった可能性が高いとみるべきか。

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