第207回日本経済予測

ポストコロナを見据えた日本経済の展望 ①米大統領選、②デジタル化、③経済対策、の影響を検証

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2020年11月20日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 佐藤 光
  • 政策調査部 主任研究員 山崎 政昌
  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦
  • 経済調査部 シニアエコノミスト 久後 翔太郎
  • 永井 寛之
  • 山口 茜
  • 鈴木 雄大郎
  • 経済調査部 エコノミスト 小林 若葉
  • 経済調査部 エコノミスト 田村 統久
  • 和田 恵
  • 経済調査部 エコノミスト 岸川 和馬
  • 遠山 卓人

サマリー

  1. 実質GDP成長率見通し:20年度▲5.5%、21年度+3.2%:7-9月期の実質GDPは前期比年率で+21.4%と大幅なプラス成長となったが、前期の減少額の半分強しか埋められなかった。10-12月期以降の回復ペースは緩やかなものにとどまろう。本予測のメインシナリオでは、一定の感染拡大防止策が継続的に実施されると想定し、21年の実質GDP成長率を+2.0%と見込んでいる。だが足元では、感染爆発が生じ4、5月のような緊急事態宣言の発出やロックダウン等を余儀なくされる可能性が国内外で急速に高まっている。リスクシナリオでは21年の前半と後半に二度、日米欧で感染爆発が起きると想定し、21年の実質成長率を▲0.8%と見込んだ。この場合、倒産する企業が急増して金融危機に発展する恐れがある。現時点でその蓋然性は低いものの、万が一、世界恐慌並みの金融危機が起これば、21年の実質GDP成長率は▲8%程度まで悪化する可能性がある。
  2. 論点①:バイデン政権誕生が日本経済に与える影響:バイデン氏は増税を公約とする一方、大規模な財政支出を掲げ、総じて見れば景気刺激的な政策を目指している。だが、議会でのねじれ継続が見込まれる中、民主・共和両党の意見が対立する政策の実現は難しい。財政政策による米国のGDPの押し上げ効果は2022年から2025年の平均で+0.5%程度と見込む。また、日本の実質GDPに与える影響は、2022年が+0.33%、2023年が+0.54%、2024年が+0.61%と見込まれる。ただし、バイデン政権下では、政府支出に伴う調達において米国内からの調達が重視され、日本経済への影響も限定的となる可能性がある。さらに、バイデン氏が掲げる規制強化などが企業マインドの悪化などを通じて米国・日本経済にネガティブな影響を及ぼす可能性には留意が必要である。
  3. 論点②:デジタル化による経済活性化と課題:行政サービスのデジタル化は、ビジネス環境の改善につながるような領域ではいまだ不十分な面がある。日本のビジネス環境に係る課題の中には、デジタル技術により解決が可能なものが依然少なくない。デジタル庁(仮称)を司令塔としてデジタル化を積極的に推進し、こうした課題を解決すれば、一人当たり実質GDP成長率は1.1%ptほど高まる可能性がある。また、規制改革などを合わせて行いつつ、ビジネス環境を最大限に改善していけば、その上昇幅は1.6%ptに拡大する。加えて行政のデジタル化は、家計のセーフティネットの強化や行政サービスの質の向上にもつながる。国民の所得情報や銀行口座をマイナンバーに紐づけて管理するなどのインフラ整備が今後必要性を増していこう。
  4. 論点③:有効な経済対策とは:コロナ禍における日本の経済対策はリーマン・ショック時よりも迅速に実行され、これまでは国際的にも遜色ない成果を上げている。ただし、GDPギャップにみる需要の不足度合いや、財政面での国際比較からは、GDP比3%程度の追加財政支出が視野に入ってくる。近く編成される第3次補正予算を含む追加経済対策で想定される政策メニューの中でも、各種の「Go To キャンペーン」は事業環境の厳しい産業に焦点が当たり、生産波及効果や就業誘発効果も相対的に大きい。感染拡大防止策の徹底を前提に、実施期間の延長を検討するべきであろう。
  5. 日銀の政策:予測期間中のCPIは、20年度、21年度ともに前年割れが見込まれる。景気回復の足取りは重く、当面は企業への資金繰り支援の必要性が強い。そのため日銀は極めて緩和的な金融政策を継続しつつ、必要に応じて追加の緩和策を実施するとみている。

【主な前提条件】
(1)公共投資は20年度+2.3%、21年度+1.0%と想定。
(2)為替レートは20年度105.5円/㌦、21年度104.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は20年▲3.6%、21年+3.6%とした。

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