サマリー
◆米中通商交渉が一旦の前進を見たことは、世界・日本経済にとって朗報である。しかし両国の主張に齟齬が見られることや、米国が求めてきた構造改革に中国が全幅で応じる兆しは見られないことを踏まえると、今後の展開に安易な期待を抱くことは難しい。米中の問題を別としても、世界経済は未だ循環的な減速局面に位置している。もちろん、明るい兆しがないわけではない。早期に調整局面を迎えていた景気敏感産業において、複数の国で底入れの兆しが見られることや、財政金融政策に発動余地が残る国々で底堅い成長が続いていることも、日本の輸出を下支えする材料となる。
◆むしろ日本経済の懸念材料は、外需の不振が国内雇用・所得に波及する中で、政策的な対応余地が限られることだ。とりわけ金融政策において、日本銀行が単体で日本経済の成長率を顕著に押し上げるような政策ツールは残されていない。そこに、消費税増税の影響が加わる。今回の増税、および社会保障充実策に伴うネットの財政緊縮効果は、約2兆円だ。前回増税時の約8兆円よりも小幅ながら、決して無視できる規模ではない。
◆加えて短期的には「駆け込み需要と反動」が景気を振幅させる要因となる。本稿では、現在入手可能なマクロ経済統計と業界統計を利用して、増税直前の9月までに発生した駆け込み需要に関する二つの事実を確認した。一つは、前回・前々回の増税時に比べて駆け込み需要の規模は一定程度、抑制されているということだ。その背景の一つとして、自動車税の減免やキャッシュレス決済へのポイント還元などといった需要平準化策が奏功したことも挙げられよう。しかしながら、もう一つの事実として、駆け込み需要は今回も確実に発生していたことが確認された。自動車では特に普通車と軽自動車、住宅では持家と分譲、そして小売店では特に百貨店において増税直前に需要が伸長している。とりわけ、対策のエアポケットとなった分野で駆け込み需要が顕著に発生したようだ。
◆今後は駆け込み需要の反動とともに、駆け込み需要の発現を見越した「駆け込み出荷」の反動にも警戒しなければならない。中でも家電、パルプ・紙・紙加工品工業、化学工業といった業種における駆け込み出荷が顕著だ。これらが成長を押し上げた効果は今後剥落し、反動減に転じていく公算が大きい。
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