日本経済見通し:2018年10月

米中貿易戦争の本質 -「歴史の終わり」の終わり(もしくは始まり)-

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2018年10月23日

  • 小林 俊介
  • 経済調査部 研究員 廣野 洋太

サマリー

◆米中新冷戦の展開を見通すに当たり、本稿では政治経済の両面から本質整理を試みる。まず、生産年齢人口比率がピークアウトした2010年を転換点として、中国は「世界の工場」としての高度成長期を終えている。そして国力の基礎たる、経済の量的な拡大が見込めなくなった中国は生産性の向上に着手し始めた。その代表例が「中国製造2025」であり、その中心的な手段は先進国技術の強制移転であった。

◆これに対し、オバマ退出後の米国は、中国による覇権への挑戦を阻止すべく動き始めた。中国による覇権奪取を阻止する一つの手段は軍事政策だが、軍事的優位性を維持・拡大する上で国力・経済力格差の維持・拡大が必須となる。ここで減税と関税が大きな意味をもつことになる。そして米国による中国たたきは関税にとどまらない。同盟諸国による中国包囲網が着実に形成され始めている。

◆また、冷戦は消耗戦である。消耗戦を優位に戦う上では兵糧が重要となるが、これは同盟諸国から徴収されることになる。日本は米国内における自動車産業の投資を、EUは関税の引き下げを、カナダ・メキシコは米国内生産比率の向上を、それぞれ容認した。しかしそこに、中国の突破口の一つ(中国との互恵関係構築により同盟関係を揺さぶる戦略)が存在するとも言えよう。

◆米中貿易戦争が両国、および日本・世界経済に与える経済効果の分析は、過去の月例経済見通しでも紹介してきた通りである。本稿の分析パートでは、米中関税の経済効果について、改めて当社のモデルによる試算結果を紹介するが、こちらは概ね見方に変更はない(壊滅的ではないものの、無視できる規模でもない)。なお、IMFによる試算がアップデートされているが、こちらも前提条件を揃えれば当社の試算と大差ない。

◆他方、これらのモデルの限界点である「二次的効果」と「代替効果」には細心の注意が必要だ。前者は例えば、中国から米国に輸出されている電子機器を生産するために必要となる部材や資本財の日本からの輸入金額が顕著に減少する効果をさす。後者は例えば、米中が関税を相互に賦課することで日本における代替生産が増加する効果をさす。

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