サマリー
◆8月1日、トランプ米国大統領は中国からの輸入品約3,000億ドルに対して10%の追加関税を賦課することを宣言した。同措置は9月1日から発動される。もっとも、今回の措置は従前より指摘してきた長期的「米中冷戦」構造の延長線上にあるものにすぎない。そこで本稿では、今回の追加措置に関する個別具体的な疑問への回答を試みる。
◆【何故このタイミングが選ばれたのか】、表向きの理由は、7月31日に上海で行われた米中閣僚級協議で進展が見られなかったことだ。しかし推測するに、①北戴河会議と建国70周年記念式典を目前に控えた習近平国家主席の面子を潰し、中国内政における求心力を殺ぐ目的があったと考えても不思議ではない。また、②関税の発動により米国経済が受ける打撃を軽減する財政金融政策の準備が整ったことも見逃せないだろう。
◆【今回の措置の影響】マクロモデルを用いて推計すると、今回の措置に伴う打撃は中国▲0.05%pt、米国▲0.11%pt、日本▲0.04%ptとなる。過去1年半で発動された対中追加関税全てを合計した累積効果は中国▲0.30%、米国▲0.40%、日本▲0.17%だ。しかし今回の措置がこれまでと異なるのは、①対象費目に含まれる消費財のウェイトが大きく、②中国以外からの代替輸入が難しいことから、米国消費者への影響が相対的に大きくなる点にある。
◆このことは【何故25%ではなく10%の関税率が採用されたのか】という疑問に対する回答の一つとなろう。加えて、①さらなる追加関税を脅しに中国からの譲歩を引き出す誘因が未だ残されていること、②交渉中に米国企業の中国からの生産移転を促し、関税が米国経済に与える打撃が軽減されるよう時間を稼いでいる可能性、なども指摘される。
◆【今後の展開】も過去と同様だろう。国体に関するものも含まれる米国の要求に対して、中国は満額回答をすることはできない。しかし米国の経済金融環境および支持率次第で、交渉再開も繰り返される。短期的な緩和局面を挟みながらも、長期的には緊張の激化が続く公算が大きい。対して【中国に選択可能な対応策】は少ない。しかし対米交渉における失地回復を狙い、中国が別の政治問題で強硬措置に出る可能性には注意が必要だ。
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