2019年07月23日
サマリー
◆【米中交渉再開の含意とG20の深層】米中首脳会談を経て両国の通商交渉が再開され、対中関税「第4弾」の発動は見送られた。同関税の影響は中国▲0.11%pt、米国▲0.26%pt、日本▲0.09%ptと試算され、これが回避されたことは朗報だ。しかし交渉は振り出しに戻ったにすぎない。米国に要求されている構造改革に関して、十分な回答を中国が用意できない限り、米中「決裂」の可能性は残される。
◆米中「一時休戦」の間に日本にとっての正念場が訪れる。11月13日に設定されている自動車関税の判断に向けて、日米間の交渉が本格化する公算が大きい。仮に全ての自動車・自動車部品に25%の関税が賦課された場合、年間1.2兆円の追加増税が発生する。日米交渉の帰趨が日本経済の行方を占う上で死活的に重要なカギとなろう。
◆【罰則付き残業規制が施行開始、どこまで対応は進んだのか】2019年4月以降、時間外労働の上限規制が施行された。しかし日本企業の対応は未だ不十分だ。今後1-2年で316万人の超長時間労働を解消する必要がある。そのインパクトは年間約11.3億時間、総労働投入時間の約0.9%に相当する。
◆不十分ではあるものの、長時間労働是正の機運が高まった2015年度以降、日本企業は総労働投入時間を増加させながらも、3年間で51万人の超長時間労働を解消している。その主な対策は短時間労働者の増員とワークシェアリングであり、主な対象は学生、高齢者、女性であった。しかしこうした対応にもいずれ限界が訪れる。今後同様の対策を続ける上では、シニア層(再雇用)、非労化した人材(就職氷河期世代)、外国人労働者などの取り込みが必要となりそうだ。
◆【消費増税前の「駆け込み需要」の現状確認】消費増税前の駆け込み需要は、現時点で物品に関しては確認されない。住宅には駆け込み需要が確認されるが、需要平準化策の効果、および2014年増税時にも既に駆け込み需要が発生していたことなどを受け、前回・前々回に比べれば限定的だ。もちろん、より本質的な問題は増税後の「負の所得効果」だ。今回の消費増税に伴い、2020年度にかけて消費が抑制されると見込んでいる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
日本経済見通し:2019年5月<訂正版>
「米中冷戦」再開で日本の輸出は最大約1.3兆円減少
2019年05月24日
-
日本経済見通し:2018年10月
米中貿易戦争の本質 -「歴史の終わり」の終わり(もしくは始まり)-
2018年10月23日
-
<最新版> 米中冷戦再開の政治経済分析
通商協議決裂の政治力学解析と世界経済・日本経済への影響試算
2019年05月16日
-
大局的視座から探る労働市場展望
フィリップスカーブの有効性は本当に崩れてしまったのか?
2018年07月20日
-
日本経済見通し:2018年3月
『春闘・賃上げで消費拡大』シナリオの総括的検証
2018年03月23日
同じカテゴリの最新レポート
-
第227回日本経済予測(改訂版)
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年12月08日
-
主要国経済Outlook 2025年12月号(No.469)
経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国
2025年11月26日
-
トランプ関税の世界経済への影響は限定的なのか
2025年11月26日
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

