サマリー
◆2019年1-3月期のGDP一次速報を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2019年度が前年度比+0.5%、2020年度が同+0.5%である。先行きの日本経済は、引き続き潜在成長率を下回る低空飛行を続ける公算が大きい。
◆日本経済は2017年末以降、足踏み・ゼロ成長を続けている。その背景は伸び悩む輸出と、それを端緒とした在庫調整にある。そして外需が振るわない中、相対的に重要性が増している内需も不振である。2018年秋以降の原油価格の下落は一時的に家計の実質所得を底支えしてきたが、原油価格の再上昇を受け今後はこうした好材料が剥落する。さらに2019年10月には消費増税が予定されており、本格的な回復は当面見込みがたい。
◆内需の回復シナリオを期待できない中、日本経済が再び本格的な(潜在成長率を上回る)成長軌道に回帰するためには、結局のところ外需が底入れ・反転する必要がある。その外需(輸出)の足を引っ張り続けてきた中国向け輸出について、好材料と悪材料の両方が浮上してきた。好材料は、政府の景気テコ入れ策による中国経済の底入れ期待であり、とりわけ融資の増額とインフラ投資の増加に期待が持たれた。
◆しかしこうした好材料に対する期待を台無しにしてしまったのが「米中冷戦」の再開である。付加価値輸出の概念をモデルに組み込んだ試算によれば、既に決定されている米中双方の追加関税により日本の輸出金額は約0.7兆円減少することになる。また、仮に米国が、ほぼ全ての品目に25%の追加関税を賦課した場合、日本の輸出は約1.3兆円押し下げられる。
◆もっとも、米中摩擦が日本経済に与える影響は悪いものばかりとは言い切れない。まず、関税の賦課は歳入の増加要因である。新たに発生した財政収入を米中政府が歳出拡大に転用すれば、経済的な打撃は概ね相殺される可能性もある。また、米中が関税を相互に賦課することで東南アジア等の新興国で代替生産が増加すれば、日本企業にも、こうした国々への販路拡大の機会が発生する。日本経済が再び本格的な回復局面に回帰する上では、こうした要素が日本の輸出を好転させる経路が重要となるだろう。
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