サマリー
◆5月10日、米国は約2,500億ドル全ての対中輸入品目への追加関税率を25%に引き上げた。さらに、残りの約3,000億ドルにも最大25%の追加関税を賦課する予定である。一方中国は、600億ドル相当の対米輸入品への追加関税を6月1日に最大25%へと引き上げることを表明した。そこで本稿では①背景にある政治力学を解析し、②世界経済への影響を網羅的に分析するとともに、③日本経済への含意を考察する。
◆【決裂の可能性が高まる米中通商協議】中国の覇権への挑戦を阻止することを目的とした米国の妨害戦略は長期的に続くだろう。その主たる手段は軍事政策だが、軍事的優位性を維持するために国力・経済力格差の維持が必須となる。ここで減税と関税が大きな意味を持つ以上、今後も長期的に通商摩擦の激化が継続する公算が大きい。
◆【世界経済に与える影響の網羅的分析】米国の対中関税は、5月10日以降、2,575億ドルの輸入品目に対して賦課されている。これらの品目への追加関税が一律25%に引き上げられたことで、追加関税総額は326億ドルから644億ドルとなった。品目別では、記憶装置の部品などの電子機器の部品、携帯電話を含む電話機の追加関税額のウェイトが大きい。また、残りの約3,000億ドルの品目に追加関税が課されると対象品目は5,255億ドルとなり、追加関税総額は1,314億ドルに上る。こちらの追加関税対象品目は、携帯電話を含む電話機やノートパソコン、玩具など消費財のウェイトが大きい。
◆大和総研のマクロモデルを用いた試算によれば、足下の追加関税率に6月1日に予定されている中国の報復を加えると、GDPの下押し効果は中国▲0.25%、米国▲0.29%、日本▲0.02%となる。さらに、米国が残りの3,000億ドル相当にも25%の追加関税を賦課した場合、GDPの下押し効果は中国▲0.36%、米国▲0.55%、日本▲0.03%となる。
◆【日本経済への含意】日本にとって最も懸念すべき問題は「二次的効果」だ。すなわち、中国から米国に輸出されている電子機器を生産するために必要となる部材や資本財の対中輸出が顕著に減少する効果である。他方、米中冷戦が深刻化するほどに同盟関係が重要となり、米国による対日関税の引き上げリスクが後退することや、米中が関税を相互に賦課することで日本における代替生産が増加する「代替効果」は、日本経済にとって言わば「漁夫の利」となりうる点にも留意しておきたい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
「逆イールド」が目前に迫るFRBの最終手段
残された唯一の選択肢は「ステルス・逆・ツイスト・オペ」
2019年04月19日
-
「中国経済回復」の虚実
中国経済が向かう先は失速か、バブル再来か
2019年04月19日
-
日本経済見通し:2018年10月
米中貿易戦争の本質 -「歴史の終わり」の終わり(もしくは始まり)-
2018年10月23日
-
「米中冷戦」再開の政治経済分析
通商協議決裂の政治力学解析と世界経済・日本経済への影響試算
2019年05月07日
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2024年12月消費統計
耐久財は強いが非耐久財が弱く、総じて見れば前月から概ね横ばい
2025年02月07日
-
インド2025年度予算案:消費回復が民間投資を促す好循環を生むか
企業投資の誘発効果の大きい耐久財セクターへの波及がポイント
2025年02月06日
-
消費データブック(2025/2/4号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年02月04日
-
「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 会社法の改正に関する報告書
従業員等への株式の無償交付、株式対価M&A、実質株主の把握など
2025年02月04日
-
中小企業の更なるM&A促進には環境整備が急務
2025年02月07日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
2025年度税制改正大綱解説
大綱の公表で完結せず、法案の衆議院通過まで議論が続くか
2025年01月06日
-
2025年の中国経済見通し
注目点は①不動産不況の行方、②トランプ2.0 vs 内需拡大
2024年12月20日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
-
岐路に立つ日本の人的資本形成
残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革
2025年01月09日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
2025年度税制改正大綱解説
大綱の公表で完結せず、法案の衆議院通過まで議論が続くか
2025年01月06日
2025年の中国経済見通し
注目点は①不動産不況の行方、②トランプ2.0 vs 内需拡大
2024年12月20日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
岐路に立つ日本の人的資本形成
残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革
2025年01月09日