第200回日本経済予測(改訂版)
引き続き内需依存。潜在成長率を下回る低空飛行が続く~①外国人労働者受け入れの賃金・生産性への影響、②グローバル経済のメインシナリオ、③同リスク要因、などを検証~
2019年03月08日
サマリー
- 引き続き内需依存。潜在成長率を下回る低空飛行が続く:2018年10-12月期GDP二次速報の発表を受けて経済見通しを改訂した(2018年度+0.6%、2019年度+0.7%、2020年度+0.6%)が、日本経済は踊り場局面にあるという当社従来の判断に変化はない。先行きの日本経済は、在庫循環および外需寄与が剥落する中、低空飛行を続ける公算が大きい。外需が振るわない中、内需の重要性が相対的に増してくるが、内需の先行きには好悪の両材料が存在している。好材料は、原油価格の下落だ。他方、悪材料は2019年10月に予定されている消費増税である。しかし後者については増税額を上回る規模での歳出拡大が予定されている。2019年の日本経済は、2018年以上に内需依存の色彩を強めるだろう。本予測では以下の三つの論点を検証した。
- 論点①:外国人労働者受け入れの賃金・生産性への影響:2019年4月から施行予定の改正入管法は、就労を目的とする在留資格(特定技能1号、2号)が創設され、今後5年間で最大35万人程度の受け入れが見込まれている。ただ現状では、外国人労働者は都市圏や製造業が盛んな地域に集中する傾向が強い。外国人労働者の受け入れの影響を計量的に分析すると、外国人労働者比率が1%pt上昇すれば、賃金は男性で0.6%程度とプラスになる一方、女性では影響は見られなかった。さらに外国人労働者が10万人増加すれば、製造業の労働生産性は0.25%上昇するとの試算結果が得られた。中長期的には、外国人労働者の受け入れにより日本人労働者の就業条件は向上する可能性が高いが、併せて経済・社会の変化に対応できるよう、日本の労働者に対する職業訓練や外国人労働者の社会統合政策なども必要だ。
- 論点②:グローバル経済のメインシナリオ:2016年終盤から始まった「グレートローテーション」、つまり株高・債券安は、2018年半ばまで継続したものの、足下では方向感が定まらない局面に陥っている。グレートローテーションは、景気が下降し、株式市場が調整局面に入ると終了する。従って、今後の焦点の一つは、世界経済の動向であり、そのカギを握っているのが、世界経済のトップ2の米国と中国である。世界生産に先行する中国の景気先行指数が足下で持ち直しており、日本から中国向けの工作機械受注にも下げ止まりの兆しが見られる。中国政府・中央銀行による経済対策・金融緩和がこうした流れを後押しするだろう。また、米国企業の景況感を表すISM指数は2018年末に大幅に悪化したものの翌月は改善しており、高水準を維持している。もっとも、トランプ大統領の政策運営は内外の景気を見通す上での波乱要因であり、引き続き注視していく必要があろう。
- 論点③:グローバル経済のリスク要因:リーマン・ショック後、長期にわたって維持された低金利は高水準の債務(高レバレッジ)を可能にしてきたが、その結果、例えば米国企業の債務残高GDP比は過去のバブル崩壊前後の水準を既に上回っている。何らかの出来事をきっかけに信用収縮が起こり、クレジットサイクルが逆回転を始める可能性は否定できない。2019年以降、①トランプ政権の迷走、②中国経済や③欧州経済の悪化、④残業規制の強化、⑤株価下落による個人消費の悪化など内外の様々な下振れリスクが顕在化した場合、日本の実質GDPは最大で▲3.6%程度減少する可能性がある。今後も、世界経済が下振れするリスクには細心の注意が必要であると言えよう。
- 日銀の政策:日銀は、現在の金融政策を当面維持する見通しである。現在の金融政策の枠組みの下、デフレとの長期戦を見据えて、インフレ目標の柔軟化などが課題となろう。
【主な前提条件】
(1)公共投資は18年度▲3.6%、19年度+3.0%、20年度+0.7%と想定。
(2)為替レートは18年度111.3円/㌦、19年度111.9円/㌦、20年度111.9円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は18年+2.9%、19年+2.6%、20年+1.9%とした。
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