2018年09月10日
サマリー
- 日本経済は踊り場局面、2019年度にかけて減速:2018年4-6月期GDP二次速報の発表を受けて経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP成長率予想は2018年度が前年度比+1.2%、2019年度が同+0.8%である。日本経済は、2017年度にそろっていた好材料が剥落する格好で、踊り場局面に位置しているとの判断に変わりはない。先行きの日本経済は、当面は減速を続けながら、極めて緩やかな成長軌道を辿るとみている。
- 再推計:米中通商戦争の激化で世界経済はどうなる?:大和総研のマクロモデルを用いた試算によれば、米中間の追加関税措置が実体経済に与える影響は中国▲0.25%、米国▲0.29%である。世界経済に与える影響はIMFの試算を援用すると▲0.10%となり、壊滅的ではないものの、無視できる規模でもなくなってきた。日本にとっての正念場は「自動車追加関税」を巡る通商交渉であり、20%の関税賦課が決定した場合、日本車・部品の関税コストを1.7兆円以上増加させることになる。
- ボトムアップ・アプローチで見る猛暑効果:個人消費の短期的なモメンタムを見通すためには、猛暑の影響についても考慮する必要がある。当社の試算によると、平均気温が前年より1℃上昇した場合、7-9月期の名目家計消費支出を1,000億円程度押し上げる効果が期待される。
- 「サービス残業」が日本経済に与える影響:本章では、わが国固有の現象である「サービス残業」が日本経済に与える影響を試算した。マクロモデルを用いて、サービス残業の削減が企業所得に与える影響を測定したところ、短期的には負の効果が見られるものの、中長期的には正の効果をもたらす結果となった。また業種別には、サービス残業時間は労働生産性の低い業種で多く、そうした業種に人材は滞留しやすい。そこで雇用が流動化し、サービス残業の多い産業からの人材移動による影響を試算したところ、2.0%程度の生産性改善が期待できる。生産性の低い企業がサービス残業に依存する余地を徐々に狭めていくことができれば、中長期的にはマクロ経済にもプラスとなるだろう。
- 財政再建は見果てぬ夢?:政府は、2018年6月に、これまで2020年度としていた国・地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化目標の達成時期を、2025年度へと5年先送りにした。新たな達成時期についても、現在の国・地方の歳出・歳入構造や、黒字化のために高い経済成長率が必要とされていることなどを勘案すると、その実現は決して容易でない。こうした日本の財政問題に関して、本章では、国際比較を通じてわが国の財政の現状を再確認するとともに、国・地方のPBの現状と中長期的な展望について分析した。大和総研と内閣府の「ベースラインケース」に基づくと、日本の基礎的財政収支の赤字額は、2025年度にそれぞれ▲9.7兆円、▲8.1兆円となり、PB黒字化には消費税率4%pt分以上の収支改善が必要である。財政健全化への道は依然として「茨の道」だと言えよう。
- 日米の資金循環からリスクの所在を探る:リーマン・ショック前の米国やバブル期の日本は金融機関・家計・企業の債務が急増していた。結果として、バブル崩壊後に金融危機を併発し、景気後退に陥った。ITバブル期の米国では資産は増加したが、債務の拡張は目立っていない。そのため、バブル崩壊後も金融危機は回避され、景気後退も短期間で終わった可能性がある。現在は米国のリーマン・ショック前や日本のバブル期よりは、米国のITバブル期に状況は比較的似ており、リスク資産価格が下落する公算は大きいが、金融危機に陥るリスクは限定的であるとの見方も可能であろう。
- 日銀の政策:日銀は、現在の金融政策を当面維持する見通しである。2016年9月に導入した新たな金融政策の枠組みの下、デフレとの長期戦を見据えて、インフレ目標の柔軟化などが課題となろう。
【主な前提条件】
(1)公共投資は18年度▲0.4%、19年度+1.8%と想定。
(2)為替レートは18年度110.6円/㌦、19年度111.0円/㌦とした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は18年+2.8%、19年+2.5%とした。
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