サマリー
◆本稿では、生成AIの普及が日本の経済成長や雇用・所得に与える影響を定量的に分析した。雇用・所得に関しては、生成AIと仕事が代替関係にあるかどうかを基準に、労働者を二つのグループに分けて分析を行った。
◆今回の計量分析では、当社が新たに開発したマクロ計量モデルを活用した。このモデルの主な特徴としては、(1)ミクロ的基礎付けに基づく動学的確率一般均衡(DSGE)型のモデル(家計、企業、政府間の複雑な相互作用を考慮)をベース、(2)複数の労働市場を同時に分析可能とする生産関数の設定、(3)サーチ理論に基づく現実的な労働市場メカニズムの導入、などが挙げられる。
◆シミュレーションの結果、生成AIの普及単独の効果は、日本の国内総生産を+16.2%押し上げ、労働者全体では雇用や所得にプラスの効果がある(失業者数は▲4.5%の減少、賃金水準は+8.2%の上昇)と推計された。ただし、このケースでは生成AIと代替関係にある労働者の雇用・所得にマイナスの影響を及ぼし、労働者の二極化を招きかねない。
◆そこで、複数の政策対応を比較検討した結果、とりわけリスキリングは生成AIがもたらす経済成長の効果をさらに増強しつつ、代替関係にある労働者の賃金に対するマイナスの影響を緩和し、雇用に関してはその影響をプラスに転じることが推計された。加えて企業と労働者の人材マッチングの強化が実現すれば、経済成長および労働市場に対し、さらなるプラスの効果が見込まれる。労働者保護は賃金に対して追加のプラスの効果を与える一方、経済成長や雇用に対して一定の副作用がある点には留意すべきである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年8月機械受注
非製造業(船電除く)を中心に弱含み、政府は基調判断を下方修正
2025年10月16日
-
経済指標の要点(9/13~10/15発表統計)
2025年10月16日
-
25年度最低賃金改定の総括と今後の焦点
新政権では欧州型目標の導入など最低賃金政策の再考を
2025年10月14日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日