生成AIが日本経済に与える影響の計量分析

経済成長を促進するも格差拡大の懸念。リスキリング等の対応が鍵に

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2024年11月08日

  • デジタルソリューション研究開発部 田中 誠人
  • 経済調査部 主任研究員 新田 尭之

サマリー

◆本稿では、生成AIの普及が日本の経済成長や雇用・所得に与える影響を定量的に分析した。雇用・所得に関しては、生成AIと仕事が代替関係にあるかどうかを基準に、労働者を二つのグループに分けて分析を行った。

◆今回の計量分析では、当社が新たに開発したマクロ計量モデルを活用した。このモデルの主な特徴としては、(1)ミクロ的基礎付けに基づく動学的確率一般均衡(DSGE)型のモデル(家計、企業、政府間の複雑な相互作用を考慮)をベース、(2)複数の労働市場を同時に分析可能とする生産関数の設定、(3)サーチ理論に基づく現実的な労働市場メカニズムの導入、などが挙げられる。

◆シミュレーションの結果、生成AIの普及単独の効果は、日本の国内総生産を+16.2%押し上げ、労働者全体では雇用や所得にプラスの効果がある(失業者数は▲4.5%の減少、賃金水準は+8.2%の上昇)と推計された。ただし、このケースでは生成AIと代替関係にある労働者の雇用・所得にマイナスの影響を及ぼし、労働者の二極化を招きかねない。

◆そこで、複数の政策対応を比較検討した結果、とりわけリスキリングは生成AIがもたらす経済成長の効果をさらに増強しつつ、代替関係にある労働者の賃金に対するマイナスの影響を緩和し、雇用に関してはその影響をプラスに転じることが推計された。加えて企業と労働者の人材マッチングの強化が実現すれば、経済成長および労働市場に対し、さらなるプラスの効果が見込まれる。労働者保護は賃金に対して追加のプラスの効果を与える一方、経済成長や雇用に対して一定の副作用がある点には留意すべきである。

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