サマリー
◆本研究では、消費者物価指数(前年同月比、以下CPI)に対して先行性を有する「大和物価センチメント指数」の開発を試みた(※1)。具体的には、内閣府「景気ウォッチャー調査」における「景気判断理由集」の各テキストを「物価上昇」、「物価下落」など4種類に分類した結果を基に指数を構築した。
◆各テキストをより高い精度で分類するために、本研究では生成AIの一種である大規模言語モデル(Large Language Model,以下LLM)を活用した。ここでは、LLMへの命令であるプロンプトの最適化を通じて、高い精度でのテキスト分類に成功した。さらに、指数の算出式を工夫して、CPIとより高い相関を得ようと試みた。
◆2001年から約24年分の月次データで、大和物価センチメント指数とCPIとの相関係数を確認した結果、消費税調整済のコアCPI(除く生鮮食品)との間で最大0.888(2カ月先行)、同コアコアCPIとの間で最大0.817(5カ月先行)、という先行研究を上回る高い相関が確認された。さらに、指数の振れを抑えるために後方3カ月移動平均を施したところ、先行性はやや薄れたものの、同コアCPIとの間の相関係数は最大で0.903(1カ月先行)までに達した。
◆各種データとの補完的な活用にはきわめて有用である一方、注意点としては、元データが本来は景気に関する調査によるものであることが挙げられる。そのため、先行研究と同様に、定期的な価格改定など景気と無関係な価格動向に弱い可能性は、依然として残る。
◆次回以降の分析では、LLMが物価の上昇や下落を判断する際に用いた単語や、判断の根拠となったテキスト本文を解析することで、物価変動に影響を与えた特徴語を抽出することなどを検討している。
(※1)本研究においては、当社データドリブンサイエンス部の栗山太吾・寺坂壮一郎・參木裕之の各氏から、有益な助言やコメントを頂戴した。なお、本研究内の所見は全て著者らの個人的見解であり、当社の物価見通しを示すものではない。
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