サマリー
◆前回のレポートでは、従来型の自然言語処理が金融経済分析にどのようなメリットをもたらし、どのようなテーマに適用されてきたのかを紹介した。本レポートでは、GPT(Generative Pre-trained Transformer)モデルの一種であるGPT-4などの大規模言語モデル(Large Language Model、以下LLM)の登場が、金融経済分析にもたらした影響について考察する。
◆LLMの金融経済分析への応用例としては、多言語能力を活用した異なる言語のセンチメント分析や、文書分類の精度向上などが挙げられる。大和総研では、各職業のタスクのテキスト文をGPT-4に分類させた結果を利用して、生成AIが日本の労働市場に与える影響を分析した事例などがある。また、財務諸表分析で、アナリストによる分析や従来型の機械学習モデルを上回る精度で、財務指標の変動を予測できたとする研究等もある。
◆ただし、LLMには従来型の自然言語処理と比較して、複数の課題がある。例えば、モデルの内部機構や訓練データの詳細な理解が困難なブラックボックス性は、説明責任が重い公的セクターでの指数開発への応用などに難をもたらす(透明性の問題)。また、多くのモデルの開発が企業依存であることは、一度開発した指数等を継続的に利用できないリスクが存在する(継続性の問題)。出力結果が複雑な場合は、人間による解釈が困難な問題(解釈可能性の問題)も生じる。この問題では、従来型の自然言語処理の中でも、解釈が比較的容易な原始的な手法が優れる。さらに、時系列データの予測においては、現時点では従来の時系列分析モデルに軍配が上がる場合もある。
◆結論として、LLMは分類タスクや多言語での強みが確認されるものの、透明性や解釈性が求められる分野や時系列分析などでは、従来型の自然言語処理や時系列分析手法が依然として重要である。もちろん、LLMが抱える一部の課題は時間とともに解消されるだろうが、現時点(2024年10月)においては、LLMに過度な期待をかけるべきではないだろう。金融経済分析には、LLMと従来型の自然言語処理や時系列分析手法を、タスクの要件に応じて適切に使い分けることが求められる。
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