貿易・デジタル収支「赤字体質」の構造的課題を検証する

競争力低下や産業空洞化、デジタル関連の輸入依存等への対応が必要

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2024年05月28日

サマリー

◆日本の貿易収支は、輸出財の高付加価値化が改善に寄与してきたが、近年はそのペースが鈍化している。さらに輸出数量の伸び悩みや輸入数量の増加、エネルギー輸入額の増加もあって「赤字体質」となった。一方、長期にわたって赤字が続くサービス収支は、2010年代後半から赤字幅が拡大傾向にある。その要因の1つが、デジタル分野の収支悪化だ。デジタル収支は2023年で▲5.5兆円と、赤字額はこの5年で2倍になった。

◆日本の構造的な貿易・サービス赤字の背景を整理すると、①電気機械を中心とした国際競争力の低下、②産業空洞化、対日直接投資の停滞、③デジタル関連を中心とした輸入依存度の高まり、④エネルギー価格の高騰、原発停止、がある。さらに貿易構造の脆弱性に関するリスクとして、⑤輸出入両面での中国依存度の高さ、も指摘できる。

◆当社の中期予測などに基づくと、2023年度でGDP比▲1.0%だった日本の貿易・サービス収支は、2033年度で同▲2%程度へと悪化する見通しだ。輸出財の国際競争力の更なる低下や、産業空洞化の進行、エネルギー価格の高騰、脱炭素化の遅れ、生成AIの利用拡大に伴う関連サービス料の支払い増加などにより、収支見通しが大きく下振れする可能性も否定できない。収支構造の強靱化や国際競争力の維持・強化に向け、上記の5つの構造的課題に政策対応する必要がある。

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