忍び寄る再度の世界的過剰債務問題

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2019年11月22日

  • 児玉 卓

サマリー

足元では半導体などハイテク関連製品に世界的需要の持ち直しが見られるなど、製造業も悪化一辺倒ではなくなってきた。これが依然として停滞を続ける世界貿易の底入れにつながるかが当面の一つの注目点である。無論、世界貿易に関しては米中間の通商協議の行方にも大きく左右される。トランプ米大統領は摩擦の激化の回避がさしあたり景気対策、選挙対策として望ましいと考えている節があるが、反政府デモが長期化している香港問題の取り扱いが両国間の「ディール」の不確実性を高めている。反政府といえばもう一つ注意すべき点がある。中南米ではアルゼンチンで左派政権の復活が決まったことに加えて、同地域の優等生的存在であったチリでも「反政府」活動が激化・長期化し、少なからぬ死者を出す事態となっている。きっかけは公共交通機関の運賃引き上げにあったとされるが、アルゼンチンのケース同様、新興国における緊縮政策の遂行の難しさを印象付ける事例である。アルゼンチンでは政権交代に至ったわけだが、そこまでいかずとも、今後政策の安易な左傾化に走る新興国が増えていかないかに注意が必要であろう。それは各国の財政を毀損し、場合によっては為替レートの下落を惹起する。結果として自国換算ベースでの政府債務負担の増加につながるリスクがある。米国をはじめとして先進国が金融緩和モードに回帰する中、世界的な過剰債務問題が世界経済のリスク要因として改めて浮上してくる可能性がある。

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