米国雇用統計が示すFRBハト派化へのベットの危険性

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2019年03月22日

  • 児玉 卓

サマリー

2月の米国の非農業部門雇用者数の増加幅は2.0万人と17か月ぶりの低水準に落ち込んだ。事前の市場予想を大幅に下回る結果でもあったが、米国経済に対する警戒感は、今のところ控えめなものに留まっている。少なくとも、株式市場はFRBのハト派化の効力の持続にベットしているようにみえる。単月の数値に拘泥しすぎることが危険なのは無論だが、今回の数値が米国経済に対する楽観論の大きな脅威とされていないのは、失業率の再度の低下、賃金上昇率の加速という良好な所得環境が、米国経済の柱である家計消費を当面は支えると考えられていることに一因がありそうだ。しかし、今回の雇用統計は、米国経済がいわゆる「適温経済」からますます遠ざかっていることの証左として読むべきではないだろうか。雇用増加数の減少と低い失業率の組み合わせは、新たな労働力の余剰の縮小(雇いたくても雇えない状況の深刻化)の反映に他ならないのではないか。賃金上昇率の加速もその文脈で理解すべきものではないか。とすれば、雇用統計の最も重要な含意は、当面の家計消費の善し悪し云々ではなく、供給制約によって米国経済の拡大にブレーキがかかる時期が着実に近づいているということであろう。それに先駆けて、残された労働力の争奪戦の激化が賃金上昇率をより加速させるとすれば、FRBのハト派化にベットし続けることの危険性はいよいよ増してくる。

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