サマリー
◆日本経済を巡り、さまざまな「通説」が存在する。本稿では、こうした「通説」の妥当性を再検討しつつ、コンセンサスが見落としている日本経済の現状を精査する。
◆「将来不安で消費が抑制されている」説は根拠薄弱だ。消費性向の動向は多くが人口動態で説明される。ラチェット効果により消費性向は前回増税前後に一時的に上昇したが、その後増税以前の水準に回帰したことで、「財政再建を進めれば消費性向が向上する」説も現実的に否定されている。
◆「消費増税の悪影響は、財政対応により相殺される」説は、2019年度に限れば妥当だ。2019年度の増税効果よりも、予定されている対策の規模は大きい。ただし対策の中身を確認すると、過半が公共投資だ。直接的な恩恵は家計よりも建設関連部門に偏重する。残り8,000億円程度の対策も、全てが増税後に発動するものではないし、永続するものでもない。消費増税の影響は2019年度後半から2020年度にかけて緩やかに発現する。
◆「省力化投資が経済成長を促進する」説は幻想だ。コスト対比での限界生産性は、ほぼ全ての産業において資本よりも労働の方が高い。本来であれば労働投入を増やすことが合理的な企業判断であるにもかかわらず、人手不足という制約により、非効率な設備投資に踏み切らざるをえないのが現状だ。また、人手不足ゆえに資本財の国内供給が追い付かず、輸入に代替されている。
◆「在庫循環における調整局面は終わりが近づいている」説は、本質的な議論ではないかもしれない。前年比でなく水準で見れば、2018年初に始まった在庫調整は道半ばだ。また、結局のところ、今後の生産活動を左右するのは出荷(需要)であり、こと日本においては外需(輸出)、とりわけ現在では中国向け輸出の動向が全ての鍵を握っている。
◆なお、2018年10-12月期の実質GDP成長率(二次速報)発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2018年度が前年度比+0.6%、2019年度が同+0.7%、2020年度が同+0.6%である。先行きの日本経済は、在庫調整および外需の低空飛行が続く中、引き続き潜在成長率を下回る低空飛行を続ける公算が大きい。
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