サマリー
貿易摩擦の実体経済へのインパクトは、関税率引き上げによる輸入価格の上昇がもたらす家計の実質所得の毀損と消費の減退、輸出数量の減少などから測られることが多い。結果として、米中摩擦のダメージは限定的という分析が現状優勢のようだ。もっともこの問題、より多面的な観察も必要であろう。例えば、中国は一定の対米報復措置を講じながらも、合わせて金融業等の外資規制の緩和を打ち出すなど、過度な保護主義への傾斜を避ける姿勢が鮮明である。4月16日に日中間で8年ぶりのハイレベル経済対話が開催されたのも、対米摩擦のヘッジを模索する中国政府の意向があってのことだろう。中国の周辺国への姿勢が融和的となり、例えば今後、RCEPの議論が前に進むなど、貿易摩擦がポジティブサプライズをもたらす展開もあり得なくはない。また、生産基地としての中国の魅力が薄れることで、周辺アジア諸国が中国から製造業拠点をタナボタ的に受け入れる可能性もある。一方、米国については、税制改革であいた歳入の穴が、関税で部分的に相殺されるという整理もできそうだが、所得分配の不平等化に拍車がかかる可能性がある。長い目で見れば、最大の敗者が米国というシナリオも考えられよう。
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