サマリー
◆本稿では、デフレ脱却を実現するための条件について経済構造面から検討する。労働生産性の向上を通じた実質賃金の上昇はデフレ脱却を後押しすると期待されるが、生産性の伸び率の高低はデフレそのものの原因ではない。デフレ期の日本の労働生産性上昇率は海外主要国と比べて見劣りしていない。
◆デフレが長期化している原因は、デフレ型の企業行動が広く定着していることにある。インフレ経済で一部の企業だけが「賃下げ・値下げ」を、デフレ経済で一部の企業だけが「賃上げ・値上げ」を行うことは困難であり、家計や企業の行動には強い慣性が働いている。
◆実体面から企業行動に変化を促し、デフレから構造的に脱却するには、息の長い景気拡大によって労働需給が引き締まった状況を維持することが重要である。企業は人材を確保するために賃上げをするようになり、次第に賃上げが幅広い業種で見られるようになれば値上げも実施しやすくなる。民間部門がリスクを取ろうとする環境を整えて雇用や設備投資の拡大を促すなど、景気が腰折れしにくくなるための成長戦略をいかに実行していくかが重要である。
◆現在、マクロから見た労働需給は逼迫しているが、他方で名目賃金は伸び悩んでいる。正規雇用に対する企業側の需要は高まっているものの、正規雇用を希望する人数の方が依然として多く、言わば“買い手市場”という状況にある。
◆今後、名目賃金上昇率が高まっていくためには、景気回復が続くことで労働需給がさらに逼迫していく必要があろう。加えて、企業が正規雇用を増やしたいと考える環境を整備し、正規と非正規のミスマッチを解消するような制度改革も重要である。例えば、企業が正社員として採用するかどうか判断する時期を試用期間の後に認めることが考えられる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
アベノミクス4年目の課題 ~デフレ脱却
物価の改善基調をこの先さらに数年維持できるか
2015年12月25日
-
失業リスクが偏在する脆弱な雇用構造
雇用構造がもたらす必需的品目の需要増加と不要不急品目の需要減少
2012年08月10日
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年7月全国消費者物価
単月で見れば弱めの結果も上昇基調は引き続き強い
2025年08月22日
-
2025年7月貿易統計
トランプ関税や半導体関連財の需要一服で輸出金額は3カ月連続の減少
2025年08月20日
-
2025年6月機械受注
非製造業(船電除く)の増加で船電除く民需は3カ月ぶりに増加
2025年08月20日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日