サマリー
◆足元の物価の基調は円安によって押し上げられているが、その効果は2015年で一服したと考えられる。円安による輸入コスト増が幅広い品目で円滑に転嫁されたのは、エネルギー価格の下落によって家計が値上げを受け入れやすかったという需要側の要因も大きい。エネルギー価格が下落する局面では、生鮮食品とエネルギーを除くCPIは一般物価に比べて基調が強いという過去の経験に留意する必要がある。
◆物価が毎年2%上昇するためには、名目賃金、特に正社員の所定内給与が前年比3%程度上昇する必要がある。これは厚生労働省の集計ベースで4~5%の賃金改定率(定昇とベアの合計)にあたり、1990年代初めの水準まで賃金の増加ペースが回復することを意味する。だが、名目賃金は今後も伸び悩み、物価上昇率はかなり緩やかなペースにとどまるとみられる。
◆2016年度後半頃に物価安定目標を達成するのは難しい情勢と思われるが、それは追加の金融緩和が必要であることを直ちに意味するわけではないだろう。現在は十分な金融緩和状況にあり、円安水準で安定している。景気が後退しても賃上げ・値上げが当たり前のように広く行われる経済を実現した時こそがデフレ脱却であり、それには相当の時間がかかるだろう。
◆日本銀行が人々の予想物価上昇率を十分に引き上げることに成功していないのは、実際の物価や賃金が上昇していないという実体経済面からの裏付け不足にあるのではないか。正社員の有効求人倍率は2015年11月で0.79倍と企業側優位の“買い手市場”である。労働需給の改善は緩やかであり、国内企業の大多数に波及するまでには数年単位の時間がかかると思われる。その間、景気拡大を維持して労働需給をさらに改善させることができるかがデフレ脱却のカギである。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
日本財政の論点 – PB赤字と政府債務対GDP比低下両立の持続性
インフレ状態への移行に伴う一時的な両立であり、その持続性は低い
2025年10月06日
-
世界に広がる政府債務拡大の潮流と経済への影響
大規模経済圏を中心に政府債務対GDP比は閾値の98%超で財政拡張効果は今後一段と低下へ
2025年10月06日
-
2025年8月雇用統計
失業率は2.6%に上昇も、均して見れば依然低水準
2025年10月03日
最新のレポート・コラム
-
日本財政の論点 – PB赤字と政府債務対GDP比低下両立の持続性
インフレ状態への移行に伴う一時的な両立であり、その持続性は低い
2025年10月06日
-
世界に広がる政府債務拡大の潮流と経済への影響
大規模経済圏を中心に政府債務対GDP比は閾値の98%超で財政拡張効果は今後一段と低下へ
2025年10月06日
-
議決権行使における取締役兼務数基準の今後
ISSの意見募集結果:「投資家」は積極的だが、会社側には不満
2025年10月03日
-
2025年8月雇用統計
失業率は2.6%に上昇も、均して見れば依然低水準
2025年10月03日
-
米国の株主提案権-奇妙な利用と日本への示唆
2025年10月06日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日